理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
石灰沈着性腱板炎における予後予測の検討
─X線画像を用いた一考案─
稲垣 剛史谷口 圭前原 一之
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p. Ca0929

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抄録
【はじめに、目的】 インピンジメント症候群とは、1972年にNeerが上腕骨頭と烏口肩峰アーチの間で腱板や肩峰下滑液包が挟み込まれ、肩関節痛・関節可動域制限をきたす現象と定義しています。この原因は2つに分類され1次的因子として、石灰沈着・肩峰の変形などの構造的狭窄。2次的因子として、腱板断裂などによる機能的狭窄があります。2次的因子である機能的狭窄については、近年Acromiohumeral interval(以下AHI)測定を用いて肩関節可動域(Range of motion:以下ROM)との関連性についての報告があります。しかし、1次的因子である構造的狭窄についての報告は少ないです。我々は、第21回愛知県理学療法学術大会より石灰沈着性腱板炎の石灰沈着部に着目し、肩峰から石灰沈着部の距離(以下肩峰石灰間距離)を測定しROMとの関連性について報告した。今回、石灰沈着性腱板炎に対する肩峰石灰間距離の測定が、予後予測の一指標になるか検討したので報告します。【方法】 対象は、平成22年11月~平成23年9月までに当院で石灰沈着性腱板炎と診断され、医師が診断目的で撮影した肩関節X線正面像があり、肩峰石灰間距離が測定でき、注射療法と理学療法を施行した13名14肩(男性5名,女性8名,平均年齢56.2±10歳)とした。肩峰石灰間距離の測定は、肩関節X線正面像からFUJI FILM,SPINE2電子画像処理機能を使用し肩峰最下端部から石灰最上部までの距離を測定した。方法は、同一医師によりキシロカイン注射を施行した後、Neer・Hawkinsのどちらかの検査で陽性であった群を陽性群、陰性であった群を陰性群とした。その後、運動療法施行前にROM-T・JOA shoulder scoreを用いて治療開始時と最終時の結果を記録した。運動療法は、効果を一定にする為、理学療法士1名が施行した。治療日数は、来院時から開始し、ROM-T・JOA shoulder scoreの改善が認められ、医師の判断で終了となった期間を治療日数とした。陽性群と陰性群の2群間で、治療開始時と最終時のROM-T・JOA shoulder score・肩峰石灰間距離・治療日数に差があるか検討した。統計学的処理には、t検定を用いて判定した。有意水準は、5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者全員に本研究の目的と方法を説明し、同意が得られた患者様を対象とした。【結果】 対象者13名中、陽性群6名・陰性群7名でした。治療開始時、陽性群ROM‐T屈曲角度平均110.7°外転角度平均100°・JOA shoulder score平均47.4点。陰性群ROM‐T 屈曲角度平均152.1°外転角度平均147.9°・JOA shoulder score平均63.1点であり、陽性群で有意に低値を認めた。最終時、陽性群ROM‐T屈曲角度平均156.4°外転角度平均160.7°・JOA shoulder score平均91点。陰性群ROM‐T屈曲角度平均168.5°外転角度平均161.4°・JOA shoulder score平均92.4点であり、両群に有意な差を認めなかった。陽性群の肩峰石灰間距離は、平均4.0±1.1mm・治療日数平均31.6±14.2日。陰性群の肩峰石灰間距離は、平均6.5mm±1.3・治療日数平均8.6±3.3日であり、陽性群で肩峰石灰間距離の有意な低値、治療日数平均の有意な高値を認めた。【考察】 今回、石灰沈着性腱板炎に対する肩峰石灰間距離の測定が、予後予測の一指標になるか検討した。その結果、肩峰石灰間距離で陽性群平均4.0mm・陰性群平均6.5mmと陽性群に有意な低値を認めたが、最終時に両群の治療結果に有意な差は認めず、共に良好な結果を得た。しかし、治療日数平均では、陽性群31.6日・陰性群8.6日と陽性群に遅延を認めた。肩関節外転・屈曲などの挙上運動時には、上腕骨頭が烏口肩峰アーチの下方を衝突せずに通過する必要がある。Poppenらは、肩関節挙上動作時、上腕骨頭の中心は、上方へ約6mm移動すると述べている。陽性群では、石灰沈着により烏口肩峰アーチ下の距離が6mm以下に狭窄し、肩関節挙上動作時に石灰沈着部が烏口肩峰アーチに衝突、この衝突により肩関節痛が繰り返され治療日数の遅延が生じたと考える。以上の事から石灰沈着性腱板炎では、肩峰石灰間距離を測定する事により、治療成績の予後予測には影響しないが、治療日数の遅延を予測出来る事が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 今回の報告では、石灰沈着性腱板炎の肩関節X線正面像を用いた肩峰石灰間距離測定が、治療日数の遅延を予測出来る事が示唆された。臨床の場では、治療期間が遅延する場合、患者様の心理的ストレスにつながります。早期より患者様へ治療期間などの予後予測やインフォームドコンセントを行う事により、円滑な治療経過につながります。今回の結果は、その一助になると考えます。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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