理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
肘関節最終伸展における円回内筋の伸張様式と弾性変化
─ShearWave Elastographyを用いた計測─
永井 教生福吉 正樹藤本 大介伊藤 孝信杉本 勝正山本 昌樹林 典雄
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p. Ca0932

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抄録
【はじめに、目的】 我々は肘関節伸展・前腕回外制限が認められる投球障害肘や術後の屈曲拘縮例における運動療法を行う際、円回内筋の伸張痛ならびに圧痛を、筋腹の近位で認めることが多いことを経験している。この様な所見から同じ円回内筋であっても、その近位と遠位で運動による動態が異なることが予想される。本研究では、超音波診断装置を用いて健常人の円回内筋の伸張について、近位部と遠位部で観察するとともに、同部位の弾性の計測を行った結果、興味ある知見が得られたので報告する。【方法】 対象は肘関節に障害のない成人10名20肘(23~38歳、平均30.2±5.0歳)とした。計測肢位は、肘関節最大伸展より30°屈曲した肢位を計測開始肢位(A)とし、最終伸展位まで10°毎に伸展した肢位をそれぞれ(B)(C)(D)とした。計測にはSuper Sonic Imagine社製超音波診断装置AIXPLORER Multi Waveを用いた。計測1として、肘関節伸展に伴い上腕骨滑車内側が前方に突出する距離を計測する目的で、上腕骨内側上顆(以下、内側上顆)と上腕骨滑車内側の最も前方に突出している部位(以下、滑車)を描出し、画像上の内側上顆遠位と尺骨鈎状突起を結ぶ線に対する滑車への最短距離を計測した。計測2として、計測1と同部位で、円回内筋の長軸像の滑車前面部(以下、近位部)とそれより遠位の前腕近位1/4の筋腹(以下、遠位部)における弾性率をShearWave Elastographyを用い、前腕回外位と回内外中間位で計測した。なお、弾性率が大きいことは変形しにくいことを意味し、圧力単位(kPa)で定量化した。滑車の突出距離の比較には一元配置分散分析と多重比較検定を行い、円回内筋の近位部と遠位部の弾性率の比較には二元配置分散分析および多重比較検定を行い有意水準は5%以下とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。【結果】 肘関節伸展・前腕回外運動における円回内筋の超音波画像は伸張されながら近位部で滑車に押し上げられ前方凸に屈折する像が観察された。計測1の滑車の突出距離は(A)0.65±0.11 mm、(B)0.73±0.11 mm、(C)0.78±0.13mm、(D)0.91±0.14 mmと伸展に伴い漸増しており、(A)に対し(C)(D)、(B)に対し(D)、(C)に対し(D)において統計学的に有意差を認めた(P<0.01)。計測2の円回内筋の弾性率は、回外位においては近位部で(A) 87.5±25.2 kPa (B) 103.1±42.4 kPa (C) 134.1±46.8 kPa (D) 195.1±52.4 kPa、遠位部で(A) 61.8±10.1 kPa (B) 73.0±8.6 kPa (C) 89.0±12.2 kPa (D) 113.6±27.3 kPaであった。回内外中間位においては近位部で(A) 32.3±12.4 kPa (B) 33.1±13.1 kPa (C) 45.7±19.5 kPa (D) 52.3±19.9 kPa、遠位部で(A) 23.7±4.9 kPa (B) 26.9±6.6 kPa (C) 28.2±6.1 kPa (D) 29.5±5.5 kPaであった。回内外中間位では両部位とも回外位と比較し弾性率は小さく、伸展に伴う弾性率の変化は少なかった。回外位では近位部と遠位部ともに大幅に漸増しており、近位部と遠位部の比較では、(A)~(D)の全ての角度において近位部が遠位部より有意に高い値を示していた(P<0.01)。【考察】 我々の臨床経験において肘関節伸展・前腕回外制限が認められる症例では、円回内筋の近位に伸張痛や圧痛を認めることが多い。円回内筋の形態についての報告は、起始の形態や筋連結、各頭の長さや厚さについてなされているが、屈伸運動における滑車との関係についての報告はない。今回の結果から肘関節の伸展に伴う鈎状突起の背側移動は、相対的に滑車の前方突出を伴うものであり、この時、円回内筋の近位部は前方凸方向に屈折刺激を受けていることがわかった。また、前腕回外位で肘関節伸展していくに従い円回内筋の近位部において弾性率が大幅に増加することが明らかとなった。これに対し、遠位部では伸展しても形状は直線的であり、弾性率も近位部よりも有意に小さかった。つまり、回外・伸展運動は近位部の張力が高まった状態の上に、伸展に伴う滑車からの機械的圧迫が加わることが伸張痛や圧痛を感知しやすくすると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 円回内筋の伸張痛や圧痛は、構造上滑車前面の近位部に多いと考えられ、ストレッチングは近位部へのストレスを考慮して施行すべきである。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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