理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
肩関節回旋筋疲労課題を用いた位置覚の生成機序に関する研究
飯田 尚哉金子 文成青木 信裕柴田 恵理子
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p. Ca0931

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抄録
【はじめに、目的】 固有感覚の一つである位置覚は,体幹や四肢の位置を認識する感覚として古くから用いられている。位置覚の受容器としては,運動に関わる主動作筋と拮抗筋の筋紡錘からの感覚入力が重要な役割を持つとされている。一方,最近の研究においては,関節位置を自動運動で再現させる際,筋紡錘からの感覚入力以外にも,筋出力の感覚が関与すると報告されている。しかし,筋紡錘からの感覚入力と,筋出力の感覚のどちらがより位置覚に関与しているのかを検証している報告はない。このことを検証するためには,筋出力が必要となる自動運動での課題と,筋出力が必要ない他動運動での課題を組み合わせ,位置覚検査を実施する必要がある。さらに,主動作筋と拮抗筋のいずれかの筋紡錘の機能を変化させた状態で,位置覚検査を実施する必要がある。先行研究により,筋が疲労すると筋紡錘の感度が変化することが示されていることから,本研究では筋疲労前後で位置覚を検査する。本研究の目的は,筋紡錘からの感覚入力と,筋出力の感覚のどちらがより位置覚に関与しているのかを明らかにすることとした。【方法】 対象は健康な男性10名とした。すべての課題において等速性運動機器を使用し,肢位は肩関節90°外転位とした。実験手順としては,疲労課題の前後で位置覚検査,疲労確認課題を実施した。疲労の対象とする筋は肩関節内旋筋もしくは外旋筋とし,それぞれの筋の疲労課題を1週間以上の間隔を空け,別日に実施した。疲労課題は肩関節内旋もしくは外旋方向の等速性運動の反復とした。課題中の等速性ピークトルクが課題前の等速性ピークトルクの40%を3回連続で下回った時点で課題を終了した。位置覚検査では,記憶した肩関節回旋角度を自動あるいは他動運動で再現させる課題を実施した。角速度は自動,他動運動いずれの場合も5deg/secとした。記憶した角度と再現した角度の差(恒常誤差)と差を絶対値化した値(絶対誤差)を算出し,位置覚の指標とした。疲労確認課題では,肩関節内旋および外旋方向の等尺性ピークトルクを測定した。さらに,肩関節内旋筋(大胸筋,広背筋)と外旋筋(棘下筋,三角筋後部)に表面電極を貼付し,等尺性ピークトルクの50%の値を出力させ,その際の筋電図(EMG)データを記録した。筋電図データから,筋疲労の指標である中間周波数(MDF)および筋電図積分値(IEMG)を算出した。IEMGは等尺性ピークトルク発揮時の値で正規化した。統計学的手法として,各疲労条件(内旋筋疲労条件,外旋筋疲労条件)において,等尺性ピークトルクおよび各筋のMDF,IEMGを疲労課題前後でt検定により比較した。また,各疲労条件において,測定時期 (疲労課題前,後) および運動様式 (自動運動,他動運動) の2つを要因とした二元配置分散分析を実施し,位置覚の変化を検証した。2つの要因間で交互作用があった場合,その後の検定として単純主効果の検定を行った。いずれも有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘンシンキ宣言に基づき,事前に研究内容等を明記した書面を用いて十分な説明を行った。その上で,同意が得られた被験者を対象として実験を行った。【結果】 内旋筋疲労条件では,疲労課題後で等尺性内旋ピークトルクおよび内旋筋のMDFが有意に減少し,内旋筋のIEMGが有意に増加した。外旋筋疲労条件では,疲労課題後で等尺性外旋ピークトルクおよび外旋筋のMDFが有意に減少し,外旋筋のIEMGが有意に増加した。恒常誤差および絶対誤差は,いずれの疲労条件においても交互作用および運動様式要因での主効果がなかった。一方で,測定時期要因で主効果があり,いずれの疲労条件においても,絶対誤差が疲労課題後で有意に増加した。また,内旋筋疲労条件においては,恒常誤差が疲労課題後で外旋方向へ有意に増加した。外旋筋疲労条件においては,恒常誤差が疲労課題後で内旋方向へ有意に増加した。【考察】 本研究の結果から,自動,他動運動いずれの場合においても,筋疲労により位置覚が低下することが示された。しかし,位置覚が低下する度合いは自動,他動運動によって差がなかった。このことは,位置覚に主として関与するのは筋紡錘からの感覚入力であり,筋出力の感覚は大きく関与しないことを示している。また,筋疲労により恒常誤差の変化する方向が,疲労条件によって異なっていた。疲労課題後で,被験者は疲労した筋がより伸張した肢位で目標角度に一致したと知覚していた。このことは,疲労課題により,疲労した筋の筋紡錘の感度が低下したことを示唆している可能性がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は,位置覚が生成されるメカニズムを明確にすることの一助となり,固有感覚機能に対するエクササイズ等の理学療法を行う上で,重要な知見となる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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