理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
投球動作が肩関節に及ぼす影響
─関節音による影響─
伊藤 創住吉 芙小代松本 健川上 照彦室伏 祐介
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キーワード: 肩関節, 投球動作, 外転角度
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p. Ca0934

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抄録
【はじめに、目的】 これまで投球動作においてインピンジメントにより腱板の障害が発生すると言われている。また、腱板断裂などの肩関節疾患では、動作時に異常音が発生すると報告されている。そこで、今回我々は、投球動作が肩関節音に及ぼす影響を検討したので報告する。【方法】 対象は肩関節疾患や既往歴のない健常男子大学生10名(平均年齢:20.20±1.25歳)で、投球動作のフォームを一定にするため、野球及びソフトボール経験者とした。被験者には十分な説明をし、同意を得た後実験を行った。投球動作の前後で握力、関節音の発生する外転角度、関節音を収集した。関節音の収録には、マイクロフォン(SONY ECM-C115 Electric Condenser Microphone)を取り付けた聴診器を使用し、肩峰上に当て、肩関節外転を3回行った。同時にビデオ撮影をし、関節音発生時の外転角度を計測した。投球動作はストレートで100球、距離はマウンド間距離(18.44m)、スピードは実際の試合を想定したものとし、投球間隔は10~15秒とした。検討項目は、投球前後の比較として、握力、クリック音数、クリック音の発生時肩関節角度、クリック音の性状分析を行った。その後、投球前後の握力変化率別分析として、握力低下大群、握力低下小群に分類し、比較を行った。クリック音は、久世らの研究より、シャープな波形を示し、持続時間が短く、振幅0.05以上のものとした。音の解析には、音響分析ソフト「DSSF3」を使用し、ACF(自己相関係数)分析により、ϕ0、τ1、ϕ1、τeを用いた。ϕ0は音の大きさを表し、単位はデシベルで示される。ϕ1は音の強さを表し、0~1の範囲で数値が大きい程強い音となる。τeは残響時間を表し、セカンド(秒)で示される。τ1は音の高さを表し、ヘルツに換算することができる。統計処理は、各要素において投球の前後で対応のないt検定、その後握力低下大群、握力低下小群に分類し二元配置分散分析を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には十分な説明をし、同意を得た後実験を行った。また、データの収集、解析・分析では被験者の個人情報(氏名、年齢、性別等のプライバシー)が特定出来ないように匿名化を行った。【結果】 クリック音数については有意差は見られなかったが、握力とクリック音発生角度は、p値が0.05以下となり、投球後有意に握力は低下し、クリック音の発生角度は高くなっていた。ϕ0、ϕ1、τe、τ1においては有意差は見られず、投球前後でクリック音の性状に変化は見られなかった。また、握力低下小群、握力低下大群での2群間の比較では、クリック音の発生角度において、行間変数のみ有意差が認められたが、列間変動、交互作用での有意差は認められず、クリック音の発生角度は投球後有意に高くなったものの、握力の低下大・小群間に差は認められなかった。また、クリック音の発生回数、ϕ0、ϕ1、τe、τ1においても2群間に差は見られなかった。【考察】 今回の分析による結果では、投球動作によって、肩関節音の発生する外転角度は有意に大きくなった。また、握力も有意に低下していた。肩関節音の要素(ϕ0、τ1、ϕ1、τe)については、有意差が認められなかった。上野らは、全国選抜高等学校野球大会出場投手34名について試合後、肩甲上腕リズムを測定し、腱板筋力の低下が明らかになった群において、肩関節外転運動時における肩甲骨上方回旋角度が、肩甲上腕関節の角度の変化よりも有意に大きくなった、と報告している。今回の結果において、投球動作により、肩関節の発生する外転角度が有意に大きくなった。これは上野等の報告の様に、握力を含めた肩関節周囲筋の筋力低下により、肩甲骨の上方回旋への依存度が増大したため、肩甲上腕関節の位置関係が変化せず、クリック音の発生要素も同じであったため性状の変化もきたさず、前額面におけるクリック音発生角度のみが増大したと考えた。【理学療法学研究としての意義】 運動療法を施行する際に、肩関節疾患の病態を検討することは重要であり、関節音の詳細な分析は新しい診断方法として有用であると考えられる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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