理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
小学生サッカー選手の後足部アライメントが敏捷性・協調性に及ぼす影響
─プレゴールデンエイジとゴールデンエイジでの検討─
丹後 孝一佐藤 伸明井上 敏博木澤 清行
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p. Ca0941

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抄録
【はじめに、目的】 足部アライメントは運動機能や障害発生と深く関連しており、正常な足部アライメントはヒトの発育過程で足部機能を獲得するうえで重要である。中でもアーチ機能が成長期スポーツ選手の運動機能に与える影響は特に重要である。しかし、アーチ機能と関係の深い後足部アライメントに着目した報告は少ない。そこで今回小学生年代のサッカー選手を対象に後足部のアライメントを評価し、サッカーにおいて重要とされる運動能力との関連について検討した。【方法】 対象は、神戸市内で活動するサッカークラブの小学1~6年生の男子児童90名であり、プレゴールデンエイジにあたる1~3年生48名(以下、Pre GA群)と、ゴールデンエイジにあたる4~6年生42名(以下、GA群)とした。後足部アライメント評価としてLeg-Heel Angle(以下、LHA)を、足関節中間位、背屈位、最大底屈位で測定した。測定結果よりMean±1SDを中間群、Mean+1SD以上を過回内群、Mean-1SD以下を過回外群とした。運動機能評価の項目は50m走、10m走、10m×5シャトルランとした。10m走を敏捷性、10m×5シャトルランと50m走の差を協調性とした。比較検討内容として、各年代間での後足部アライメントと運動機能について多重比較検討を行い、危険率5%未満を有意差ありと判定した。【倫理的配慮、説明と同意】 測定実施に際し、研究の趣旨を理解したクラブ代表から同意を得た上で、保護者に対する説明会を行い、保護者及び本人の同意が得られた児童を対象に測定を実施した。【結果】 敏捷性においてGA群では、LHA背屈位の中間群は2.29±0.11秒、過回外群は2.17±0.07秒であるのに対し過回内群では2.42±0.18秒であり、過回内群で有意に遅い記録であった。また、LHA最大底屈位の過回外群は2.21±0.11秒であるのに対し過回内群では2.39±0.18秒であり、これも過回内群で有意に遅かった。Pre GA群においては、全て有意差を認めなかった。協調性においては、両群とも有意差を認めなかった。【考察】 敏捷性とは、素早さであり、静状態からの速い反応動作を示す。走動作のスタートダッシュにおける研究では、接地期後半に足関節底屈筋が大きなパワーを発揮し、5~9歩目より弾性エネルギーの関与が大きくなるとされている。今回規定した敏捷性は、最初の1歩目から9歩目までの要素が強く、そこでの足部の剛性や足関節底屈筋力が重要と考えられる。また、一般的に距骨下関節が過回内位であると、後足部が不安定になると言われている。本研究のLHA背屈位での過回内群は、走動作のMid-support~Take-off期に後足部の安定性を高める事が出来ず、下腿三頭筋-踵骨-足底腱膜-母趾へと続く運動連鎖が破綻し、下腿三頭筋で発揮される力を効率的に地面へ伝える事が困難であったと考えられる。LHA最大底屈位での過回内の原因としては、後脛骨筋の機能低下が考えられる。一般に、走動作のTake-off期には、踵骨が回外し足部の安定性を高めると同時に、足趾が伸展する事でウィンドラス機構が働きアーチの剛性が高まる。さらに後脛骨筋と長腓骨筋が伸張され、踵骨を安定させる事で下腿三頭筋の力を地面に伝える。しかし、後脛骨筋に機能不全があれば、つま先立ちをした際、踵部は内反せず、踵骨の制動が困難であると考えられる。また、幼児期の距骨後縁は円形であり、8~11歳までの間に二次骨化中心が出現し、1年以内に距骨体部と癒合する。しかし、Pre GA群では円形の距骨後縁と距骨体部の癒合が未完成であり、距骨下関節が形態学的に不安定であるため、計測角度と敏捷性に有意な関連が認められなかったと考えられる。協調性とは巧緻性、調整力、コーディネーションなどであり、運動を円滑に遂行するために関節を効率よく動かす能力を示す。協調性の課題には減速、ストップ、方向転換といった多くの要素が含まれており、今回の対象では、動作方法が減速から方向転換までを細かくステップを踏み換えながら行う方法や、大きく踏み込み方向転換を一歩で行う方法など様々であり、動作習熟度の差や技術的な要素が大きい。このため、協調性と後足部については有意差が認められなかったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究より、小学生年代のゴールデンエイジにあたる年代からは足部機能が運動能力に影響を及ぼし始める時期であるといえる。そのため、パフォーマンス向上と障害予防を目的に、足部機能に着目したアプローチが必要である。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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