理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
膝前十字靭帯損傷患者におけるScrew Home Movementの検討 第2報
飯田 智絵櫻井 愛子原藤 健吾工藤 優砂田 尚架増本 項福井 康之大谷 俊郎
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p. Ca0942

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抄録
【はじめに、目的】 前十字靭帯(ACL)損傷膝のOpen Kinetic Chain exercise(OKC ex)における膝関節動態は,様々な計測機器を用いて検証されているが,Point Cluster Technique (PCT)を用いた報告は少ない.我々は,第46回日本理学療法学術大会において,ACL損傷膝,非損傷膝,健常膝の回旋変化量と回旋パターンを検討したが,ACL損傷患者のScrew Home Movement (SHM)のパターンや回旋変化量は,ACL損傷膝,非損傷膝ともに健常膝と同様に一様でないと報告した.しかし被験者数が少なく,比較検討を行うには不十分であった.今回詳細を比較するため,被験者を増やし再検討したため報告する.【方法】 対象は,ACL損傷患者12名,ACL損傷膝12膝・非損傷膝11膝(平均年齢22.5±7.4歳,男性5名・女性7名,受傷からの期間4.6±4.5ヶ月),健常者12名12膝(平均年齢22.7±2.1歳,男性8名・女性4名)とした.計測は,体表に赤外線反射マーカー36点を貼付し,三次元動作解析装置VICON MX(カメラ10台)を用いた.膝関節伸展運動は,端座位で股関節,膝関節90°屈曲位から最大伸展を目標とした.計測したマーカーの位置からAndriacchiらのPCTを用いて,膝関節屈曲伸展,前後方向偏位,回旋角度を算出し, 膝関節屈曲78°を伸展開始角度とした.各々の最大値と最小値から変化量を算出しACL損傷膝,非損傷膝,健常膝の3群間で比較を行った.統計学的検定にはANOVAを用いた(p<0.05). また,伸展に伴い内旋し終末期に最大内旋の値を示す内旋型,伸展の中間期に最大外旋の値を示しその後内旋していく終末内旋型,終末期に最大外旋の値を示す外旋型にパターン分類した.【倫理的配慮、説明と同意】 国際医療福祉大学三田病院倫理委員会の承認を得て,対象者に口頭と文書にて説明を行い,研究の参加に対する同意を得て行った.【結果】 ACL損傷膝,非損傷膝,健常膝で比較した結果,膝関節屈曲から伸展での屈伸変化量はACL損傷膝68.5±13.2°非損傷膝74.7±7.6°健常膝71.0±7.4°,回旋変化量は,ACL損傷膝10.4±6.4°非損傷膝11.0±7.0°健常膝8.8±3.1°であった.前後方向偏位量はACL損傷膝1.7±1.0mm非損傷膝1.7±0.9mm健常膝1.6±1.0mmであり,屈伸変化量,回旋変化量,前後方向偏位量の全てに統計学的有意差は認められなかった.パターン分類の結果は,内旋型15膝(ACL損傷膝6,非損傷膝4,健常膝5),終末内旋型7膝(ACL損傷膝3,非損傷膝3,健常膝1),外旋型13膝(ACL損傷膝3,非損傷膝4,健常膝6)であった.【考察】 前回我々は,ACL損傷膝では脛骨内旋による制動が生じず,内旋が過剰になることが予測されるため,ACL損傷膝は内旋型・終末内旋型をとならないのではないかと推測した.その結果,ACL損傷膝では内旋型1例,終末内旋型2例,外旋型2例とその傾向は一様でなかった.また,回旋変化量に関しては,内旋型1例と終末内旋型2例において,非損傷膝に対するACL損傷膝の最大伸展角度差,回旋変化量差を見ると,ACL損傷膝を伸展しない,もしくは回旋角度変化量を少なくする傾向が認められたと報告した. 今回の結果では,回旋パターンがACL損傷患者,健常者ともに外旋型13膝,終末内旋型7膝,内旋型15膝と一様ではなく,ACL損傷膝,非損傷膝の比較でもパターンの変化は認められなかった.伸展変化量に有意差は認められなかったが,ACL損傷膝の内旋型6例と終末内旋型3例において,非損傷膝と比較し完全伸展しない,もしくは回旋変化量を少なくする例が7例認められ,膝関節伸展に伴う内旋を制限するための代償運動である可能性が示唆された.完全伸展し回旋変化量が大きかった2例は,受傷からの期間が約1年半の陳旧例か,再断裂例であった.また回旋変化量,前後方向偏位量もACL損傷膝,非損傷膝ともに有意差はなかったことから,ACL自体はSHMに関与せず,その有無は抗重力下での膝の自動屈伸運動における回旋角度や前後方向偏位には関与しないことが考えられる. 今回の結果から,ACLの有無に関わらず回旋パターンや回旋変化量は様々であり,なぜそのような動態をするかは不明であった.しかし,各膝によって異なる回旋パターンや回旋変化量となることは,ROM exを行う上で注意しなければならない.【理学療法学研究としての意義】 今回の結果から,膝関節のROM exを行う際は回旋パターンやどの程度の回旋角度で誘導するかに注意しなければならない.OKC exにおける回旋角度,回旋パターンや前後偏位はACL損傷膝,非損傷膝に違いは認められなかったが,術後再建靭帯への負荷量を考慮にいれ,安全な角度を検討していく必要がある.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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