抄録
【はじめに、目的】 超音波画像診断装置は非侵襲的な評価機器として有用とされ,近年,体幹筋の評価方法として多く用いられている.体幹筋の筋厚変化に関して,腹部引き込みなど様々な運動課題下での研究は多くされているが,体幹回旋運動に関する研究は少なく,評価方法としても確立されていない.本研究の目的は,体幹回旋運動における腹筋群(外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋)の筋厚変化を,超音波画像診断装置を用いて測定を行い,その有用性について検討することである.【方法】 対象は筋骨格系疾患を有さない健常成人男性10名(平均24.0±2.9歳)とした. 腹筋群の筋厚測定には,超音波画像診断装置MyLab25(HITACHI社製)を使用した.胸腰筋膜と腹横筋の筋腱移行部を画像上のランドマークとし,15mm臍側にて筋厚を測定した.測定筋は左右の外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋の3筋とした.測定は,足底が床に接地した状態の端座位にて大腿部をベルトで固定した状態で,正中位及び最大回旋可動域の50%の位置(以下,回旋位)の2肢位で実施した.各肢位にて安静状態,腹圧を高めた状態(以下,腹圧高状態),最大回旋筋力の50%抵抗を掛けた状態(以下,抵抗状態)で各筋の筋厚を測定した.測定は各3回ずつ実施し,得られた値の平均値を代表値とした.最大回旋可動域の測定は日本整形外科学会の基準に準じて実施した.最大回旋筋力の測定はハンドヘルドダイナモメーターを用いて実施した. 統計学的解析として,正中位と回旋位の両肢位における安静状態と腹圧高状態,安静状態と抵抗状態の比較を各筋にて実施した.検定は,Wilcoxonの符号付順位検定を実施した(有意水準5%).【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に対し,研究の主旨と方法について十分な説明を行い,さらに書面にて承諾を得た後に実施した.【結果】 筋厚測定の結果は右側のみ記載した(単位:mm).外腹斜筋は,正中位で安静状態6.86±0.98,腹圧高状態5.71±0.84,抵抗状態6.14±1.16,回旋位で安静状態7.28±1.73,腹圧高状態6.59±1.48,抵抗状態5.96±1.38であった.内腹斜筋は,正中位で安静状態7.07±2.37,腹圧高状態8.59±2.61,抵抗状態9.53±3.36,回旋位で安静状態8.80±2.80,腹圧高状態9.92±3.06,抵抗状態12.3±4.70であった.腹横筋は,正中位で安静状態3.31±0.91,腹圧高状態4.67±1.54,抵抗状態5.14±1.90,回旋位で安静状態4.32±1.12,腹圧高状態5.83±2.38,抵抗状態5.95±1.95であった. 外腹斜筋では,安静状態と比較して腹圧高状態にて全て有意な筋厚の減少がみられた.また,安静状態と比較して抵抗状態にて,正中位及び回旋位の両条件下で対側回旋運動時に有意な筋厚の減少がみられた. 内腹斜筋及び腹横筋では,同様の結果が得られた.安静状態と比較して腹圧高状態及び抵抗状態にて,正中位及び回旋位の両条件下で同側回旋運動時に有意な筋厚の増加がみられた.また,安静状態と比較して腹圧高状態にて,正中位及び回旋位の両条件下で対側回旋運動時に有意な筋厚の増加がみられた.【考察】 体幹回旋運動における腹筋群の運動学的機能として,同側回旋運動にて内腹斜筋及び腹横筋が働き,対側回旋運動にて外腹斜筋が働くと言われている.また,内腹斜筋及び腹横筋は腹圧の調整にも関与すると言われている.本研究の結果からも,内腹斜筋及び腹横筋は,同側回旋運動時及び腹圧高状態での有意な筋厚の増加がみられ,運動学的機能に合致していた.よって,本研究における測定方法は体幹回旋運動時の筋厚測定方法として有用であることが示唆された. 対側回旋運動にて外腹斜筋の有意な筋厚の減少がみられたことについては,外腹斜筋は筋線維が様々な方向に下行し,下部線維はほぼ垂直に下行すると言われている.本研究における測定部位はこの下部線維の可能性が高く,体幹回旋運動時に筋が伸張されたためと考えられた.また,対側回旋運動時に外腹斜筋の筋厚増加がみられなかった理由として,外腹斜筋は体幹回旋最終域での働きが強く,本研究では最大回旋可動域の50%の位置であったためと考えられた. 今後は最大筋力及び最終可動域における体幹回旋運動時の腹筋群筋厚変化の特性を明確にしていく必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】 超音波画像診断装置を用いた,腹筋群に対する静的な体幹回旋運動時の筋厚測定について検討し,評価方法としての有用性を明らかにした.体幹回旋運動時の運動様式を明確にすることは理学療法プログラムを立案する上で有益であると思われ,その評価方法の確立のための基礎的研究として意義があると考える.