理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
整形外科的下肢疾患術後早期患者に対する自動車運転時のブレーキ反応時間の検討
─システマティックレビュー─
古谷 英孝廣幡 健二美崎 定也佐和田 桂一杉本 和隆
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Cb0478

詳細
抄録

【はじめに、目的】 自動車はアクティブな活動を支える道具であると同時に,人口集積の低い地方都市や過疎地域においては重要な交通手段でもある.高齢者を対象としたアンケート調査によると,「ほぼ毎日運転している」という人が50-60%,「何歳まで運転を続けたいか」に対しては,72.8歳となっており自動車運転に対するニーズが高いことが伺える.事故を起こすことなく安全に運転する上で,ブレーキング能力は重要である.ブレーキ反応時間(Brake Response Time:BRT,危険を察知し,アクセルペダルからブレーキペダルに足を移し,ブレーキを踏むまでの時間)は交通事故防止研究において重要なパラメーターとされている.臨床場面において整形外科的下肢疾患術後早期患者より「いつ頃から運転して良いか」と質問を受けることが多い.いくつかの先行研究では,BRTを観察研究にて報告しているが,術後どの時期で正常なBRTに改善するか一定の見解が得られていない.今回の目的は,様々な整形外科的下肢疾患術後早期患者のBRTについてシステマティックレビューを行い,BRT改善経過および安全なBRT基準値からみた自動車運転再開時期について調査し,疾患別の妥当な運転再開時期を明らかにすることである.【方法】 Meta-analysis of observational studies in epidemiology(Stroup,2000)に準じてシステマティックレビューを行った.文献検索は電子データベース(PubMed,Cochran library,CINHAL,J-stage,医学中央雑誌)によるウェブサーチ,および引用文献のハンドサーチを行った.検索期間は1980年1月から2011年9月,検索用語はBrake response time,Reaction time,Driving,Automobile,Car,ブレーキ反応時間,自動車とし,言語は英語および日本語とした.適格基準は1)整形外科的下肢疾患術後に自動車シュミレーターにより,BRT測定を行っている,2)術前に運転経験のある者を対象としている,3)アクセルとブレーキペダルを操作する右下肢を術側としている,4)日本における入院期間を考慮し,術前および術後3-8週にBRTを測定している研究とした.文献の質は独立した2名の理学療法士が観察疫学的研究のガイドラインStrengthening the Reporting of Observational Studies in EpidemiologyをもとにLangharmら(2011)が作成した評価表(18点満点)を用い評価し,一致しない場合は話し合いにより解決した.選択された文献の臨床的異質性が低く,同じ時期にアウトカムを測定した文献が3編以上ある場合はメタアナリシスを行い,臨床的異質性が高い場合は統合せず,抽出された文献ごとの平均値を用い,疾患別のBRT平均値を算出し判断した.【結果】 1186編の文献が検索され,適格基準を満たした11編(人工膝関節全置換術(TKA),4編,質的評価:3-14点・人工股関節全置換術(THA),3編,9-14点・前十字靱帯再建術(ACL),2編,9-13点・半月板損傷,膝関節軟骨損傷に対する関節鏡術(Scopy),1編,12点・外反母趾矯正術(MO),1編,16点)が解析対象となった.文献間に高い臨床的異質性が認められたため,メタアナリシスは行わず,疾患別のBRT平均値にて検討した.結果,TKA術前は[BRT平均値(範囲)msec,BRT平均値に取り込まれた文献数/各疾患の文献数(編)],584(420-720),4/4,術後4週は608(428-906),3/4,術後8週は664(643-684),2/4であった.THA術前は642(560-704),3/3,術後4週は590(500-607),3/3,術後6週は560(500-620),2/3,術後8週は643(631-656),2/3であった.ACL術前は614(490-738),2/2,術後4週は617(430-805),2/2,術後6週は558(383-733),2/2,術後8週は538(389-686),2/2であった.Scopy術前は739,1/1,術後4週は685,1/1,MO術前は806,1/1,術後6週は684,1/1であった.TKA,THA,ACLは術後4-8週,Scopyは術後4週,MOは術後6週に術前と同様の値を示し,安全に走行できるBRT基準値700msecより速い結果であった.【考察】 TKA,THA,ACL,Scopy,MOにおいて4週から8週でBRTは改善し術前と同じ速度になることが示された.各疾患別BRT平均値の範囲に幅がある原因として,自動車シュミレーターが文献により異なる装置を用いていたことが考えられる.実際の自動車運転時BRTは道路状況,認知レベル,座席の位置,年齢などが影響するといわれている.自動車シュミレーターでの測定では,運転するにあたり十分安全とは言いがたいが,ADLを指導する上でひとつの指標になると考える.今回のシステマティックレビューでは文献数が少ないため,結果の一般化には十分と言いがたく,さらなる観察研究が必要である.【理学療法学研究としての意義】 今回のシステマティックレビューにより,統合された自動車運転再開時期の把握は,各整形外科的下肢疾患術後早期患者に対しADLを指導する上で科学的根拠の一助と成り得る.

著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top