理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
ストレッチング方法が最大筋力発揮に及ぼす即時的な影響の違い
─スタティックストレッチングとホールリラックスストレッチングの比較─
徳川 貴大中村 雅俊市橋 則明
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p. Cb0487

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抄録

【はじめに、目的】 ストレッチングは関節可動域(Range of Motion:以後ROM)の改善のために広く用いられている.ストレッチングの中で,スタティックストレッチング(Static Stretching:以後SS) はROMを改善するが,即時的な筋力低下を引き起こすという報告が多数ある.SSのほかのストレッチング法として,ホールドリラックスストレッチング(Hold Relax Stretching:以後HRS)がよく用いられている.HRSはSS中に伸張した肢位で対象筋の最大等尺性収縮を行うストレッチング法である.HRSについて,SS同様ROM改善に効果があるという報告があるが,最大筋力発揮に対する即時的な影響に関する報告はほとんどなく,SSとHRSの最大筋力発揮に対する即時的な影響の比較は検討されていない.本研究の目的はSSとHRSが最大等尺性筋力発揮に及ぼす即時的な影響を明らかにすることである【方法】 対象は下肢に整形外科的疾患を有さない健常男性20名(年齢22.0±1.2歳,身長171.6±4.6cm,体重62.6±10.4kg)の利き脚(ボールを蹴る側)とした. 腹臥位・膝関節完全伸展位で足関節を等速性筋力測定装置のフットプレートに固定した.上記の装置を用い,足関節底背屈0°位で3秒間の足関節底背屈等尺性筋力を測定し,最大発揮筋力は各々の最大値とした.筋力測定時,表面筋電図を用いて,腓腹筋外側頭,腓腹筋内側頭,ヒラメ筋,前脛骨筋(以後LG,MG,Sol,TA)の4筋の筋活動を記録した.サンプリング周波数は1500Hzとした.筋電図処理は全生波形を全波整流化し,50msの二乗平均平方根を求めた.SSとHRSの即時的な影響を検討するため,ストレッチングの介入前後に測定した.HRSは上記の測定と同様の装置を用い,腹臥位・膝関節完全伸展位で対象者が伸張感を訴え,痛みが生じる直前の足関節背屈角度で15秒間SSを行った直後に5秒間底屈方向に最大等尺性収縮を行い,その後10秒間同じ角度でSSを行った後,底屈30°まで戻すというHRSを4セット,計2分間施行した.SSはHRSと同様に,対象者が伸張感を訴え,痛みが生じる直前の足関節背屈角度で30秒間SSを行った後,底屈30°まで戻すSSをHRSと同様に4セット,計2分間施行した.また,HRSとSSは 1週間以上2週間以内の間隔をあけて測定を行った.統計学的処理はWilcoxon検定で,HRS前後とSS前後の底背屈トルクと各筋の筋活動量の比較を行った.Mann-Whitney検定で,HRS前後とSS前後の底背屈トルクの変化率と各筋活動量の変化率の比較を行った.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を説明し,書面にて研究参加の同意を得た.なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得た.【結果】 底屈トルクはHRS前後で197.6±41.2Nmが187.4±43.3Nmとなり,有意に低値を示した.SS前後で195.4±39.7Nmが170.7±36.5Nmとなり,有意に低値を示した.背屈トルクはHRS前で51.7±11.6Nmが55.4±11.0Nmとなり,有意に高値を示したが,SS前後では有意な変化を示さなかった.底屈時の筋活動量では全ての筋において有意な変化を示さなかった.背屈時の筋活動量はHRS前後でLGは31.3±13.2μVが29.1±12.2μV ,MGは29.7±8.7μVが 27.9±7.8μVとなりHRS後はHRS前と比較し有意に低値を示し,SolとTAは有意な変化を示さなかった.SS前後でLGは32.7±11.1μVが28.9±10.8μV,MGは30.2±8.4μVが27.3±8.9μV ,TAは384.7±111.2μVが344.9±102.4μVとなりSS後はSS前と比較し有意に低値を示し,Solは有意な変化を示さなかった.底屈トルクの変化率はHRS前後が-5.9±11.2%で,SS前後が-12.7±5.0%となり,SS前後はHRS前後と比較し有意に大きく筋力が低下した.底屈時のSolの筋活動量の変化率はSS前後が-5.8±14.3%で,HRS前後が2.5±16.0%となり,SS前後はHRS前後と比較し有意に筋活動量が減少した.一方LGとMGとTAの変化率は有意な変化は示さなかった.背屈トルクと全ての筋の背屈時の筋活動量の変化率は有意な差を示さなかった.【考察】 本研究結果より,2分間のHRSとSS後ではともに即時的に底屈筋力は減少し,SS後の方が大きく減少することが明らかになった.これはSolの底屈時の筋活動量がSSの方が大きく低下していることによると考えられる.そしてHRS後では即時的に背屈筋力が増加することが明らかになった.HRS後では背屈時の拮抗筋であるLGとMGの筋活動量が減少したことが関与していると考えられる.またSS後ではHRSと同様に背屈時にLGとMGの筋活動量は減少しているが,主動作筋であるTAの筋活動量も減少しているため背屈筋力に差が生じなかったと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,2分間のHRSとSSはともに即時的にストレッチングを行った筋の筋力を低下させるが,SSの方がより即時的に低下させることが明らかになった.本研究結果は場面に適したストレッチング方法を選択する際の重要な判断材料の一つになると考えられる.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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