理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
漕艇マシンを用いた運動におけるハンドルバー固定効果の検討
佐藤 峰善松永 俊樹畠山 和利宮脇 和人巌見 武裕竹島 正晃渡邉 基起島田 洋一
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キーワード: 漕艇, マシン, リンクモデル
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p. Cb0488

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抄録
【はじめに,目的】 マシンを用いた漕艇運動は,全身運動,有酸素運動で高いカロリー消費を伴い,トレーニング,フィットネス,リハビリテーションと幅広く利用されている.脊髄損傷対麻痺者,高齢者のトレーニングも可能であり,筋萎縮予防,メタボリック・シンドローム予防などが期待されている.漕艇運動は下肢でけり出し上肢でハンドルバー(HB)を引く運動であり,当院ではフライホイールによる空気抵抗を利用している.しかし,脳卒中片麻痺,頸椎症性脊髄症などの症例においては両上肢でHBを引けない例も存在する.そのような例でも動的坐位保持能力が良好であれば,上肢を使わずHBをシートに固定した運動は適用可能と考えられるが,こういった変則的な使用は適切かどうか動作観察だけでは疑問である.本研究目的は身体各部位への負担を解析するためのバイオメカニクス的アプローチとして身体筋骨格モデルに基づき下肢の筋張力を推定し,HB固定について検討することである.【方法】 対象は健常男性17名で平均年齢24歳,平均身長173cm,平均体重67kgである.漕艇マシンはわれわれが開発したもので,背もたれや肘掛を装備し対麻痺者でも乗り移りやすい構造となっており,特許を取得している.漕艇運動時にはシートレールの傾斜は4°,漕艇ペースは毎分23ストロークとし,計測の際にはメトロノームを用いてペースの維持をはかった.3次元自動座標計測システムを用いてストローク中の各標点推移をサンプリング周波数60Hzで計測した.同時にマシンのフットレストに設置した力覚センサから反力データも測定した.また主動筋・拮抗筋の同時収縮を反映させた筋力推定のために大腿直筋,大腿二頭筋長頭,前脛骨筋,腓腹筋の動作筋電および最大努力時の筋電も測定した.モデル計算法を用い,力学モデルとして2次元の4リンクモデル(足部,下腿,大腿,体幹)を作成した.被験者の運動データにおいて逆運動学を解き,関節角度,角速度,角加速度を求め,同時に,筋長およびその変化加速度を求めた.次に逆動力学を解いて関節トルクを求め,最適化計算し,さらに大腿直筋,大殿筋,ハムストリング,内外側広筋,大腿二頭筋短頭,腓腹筋,ヒラメ筋,前脛骨筋,腸腰筋の筋張力を求めた.これらを漕艇運動の位相に分けて観察した.なお,HB固定時と通常使用時を比較するため,漕艇ストロークの時間軸を正規化し,移動平均により平滑化したデータを対応のあるt検定で統計処理し,危険率5%未満を有意とした.【倫理的配慮,説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に則り,被検者には研究参加の任意性,同意撤回の自由,プライバシーの保護,研究方法などについて十分説明し書面で同意を得た.また実験においては腰痛などの危険を回避させるために事前に健康状態および運動フォームをチェックし,運動練習も行った.【結果】 通常時には,最大筋張力平均値は大腿直筋140N,大殿筋472N,内外側広筋372N,ヒラメ筋58Nであり,いずれも膝関節最大伸展(FKE)時にはみられなかった.また前脛骨筋の最大筋張力はドライブ期(屈曲準備~FKE)に,腸腰筋およびハムストリングの最大値はFKE時にみられた.一方,HB固定時には,最大筋張力平均値は大腿直筋105N,大殿筋563N,内外側広筋430N,ヒラメ筋61Nであり,いずれもほぼFKE時にみられた.これらの値は通常時と比較して有意な差はなかった.前脛骨筋および腸腰筋の最大値はドライブ期に,ハムストリングの最大値はFKEの前後にみられた.【考察】 マシンを用いた漕艇運動を対象とした研究は少なくはなく,筋の力学的特性を反映し,かつ各筋の協調関係のメカニズムを抽出しやすい運動と考えられている.本研究において通常の漕艇運動ではFKE後もハンドル・プル期で抵抗運動を持続させるが,HB固定時はFKE後リカバリーまでの運動は省略されることになる.しかし,筋張力の最大値の出現時期が通常時とは異なるものの,平均値に差がみられなかった.このことは,HB固定時の下肢筋は通常時に相当するほど抵抗に抗して発揮していることが推察された.また運動が通常時よりも協調性という点でも単純であり,臨床的な応用は十分可能と考えられる.今後,高齢者や麻痺者でさらに検討する必要がある.【理学療法学研究としての意義】 運動と外力の計測値から身体の力学モデルを用いて直接計測が困難な筋張力という生体内力量を推定することで,HB固定法は臨床で応用可能であることが示唆された.関節間力,エネルギー消費などさらに発展させて解析することが可能なので,今回の手法は漕艇運動の観察を補うものとして十分活用できると考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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