抄録
【はじめに】 変形性膝関節症(以下、膝OA)においてレントゲン画像を用いた膝関節アライメントの評価は、臨床的にも研究的にも頻繁に用いられる手段である。しかし、膝OAは関節面の摩耗や骨棘形成等の骨形態の不整な変形を招くため、現実的にはアライメント評価のための指標の判定が困難な場合も多い。指標の判定が困難であれば、アライメントの評価結果には誤差が生まれ、評価自体の信頼性に関わる問題に繋がると考えられる。そこで今回、レントゲン画像を用いた膝関節アライメントの評価法として知られる、FTA、FC-FS、TP-TS、FC-TP、PPTAの計測の信頼性について検討したので報告する。【方法】 検者は2名の理学療法士(A・B)とした。理学療法士としての経験年数は検者Aが1年、検者Bが3年であり、両者ともレントゲンを用いたアライメント計測には熟練していなかった。対象は2009年8月から2011年10月に当院で膝OAに対して片側の人工膝関節全置換術(以下、TKA)を施行した症例のうち、レントゲン画像の使用に承諾を得ることができた15名(74±8歳、女性13名・男性2名)とした。対象者のTKA施行に際して医師の処方の下、術前検査の目的で放射線技師によって撮影されたレントゲン画像を用いて、以下の項目を1度単位で計測した。計測項目は膝関節正面像から、FTA(大腿骨長軸と脛骨長軸が成す外方角度)、FC-FS(大腿骨長軸と膝関節の大腿骨関節面が成す外方角度)、TP-TS(脛骨長軸と膝関節の脛骨関節面が成す外方角度)、FC-TP(膝関節の大腿骨関節面と脛骨関節面が成す外方角度)、及び側面像からPPTA(脛骨長軸と膝関節の大腿骨関節面が成す後方角度)の5項目とした。計測はそれぞれの検者が1肢につき2回ずつ2日に分けて計測した。尚、計測場面や計測結果については互いの検者に遮蔽してバイアスの発生に配慮した。統計学的分析には級内相関係数(ICC)を求めて計測の信頼性を検討した。尚、検者内信頼性には検者Aの結果を用いてICC(1,1)・(1,2)を求めて検討した。検者間信頼性については検者AとBの1回目のデータを用いてICC(2,1)・(2,2)を求めて検討した。【説明と同意】 対象者には、本研究の主旨を説明し、レントゲン画像の使用に書面で同意を得た。また、検者の理学療法士にも事前に同意を得た。【結果】 検者内信頼性についてはICCを(1,1)・(1,2)の順で記載した。FTA は0.91・0.95(SEM:0.95)、FC-FS は0.70・0.83(SEM:0.73)、TP-TS は0.88・0.93(SEM:1.05)、FC-TP は0.80・0.89(SEM:1.04)、PPTAは0.71・0.83(SEM:2.60)であった。検者間信頼性については、ICCを(2,1)・(2,2)の順で記載した。FTAは0.85・0.91(SEM:1.12)、 FC-FS は0.62・0.76(SEM:0.83)、TP-TS は0.75・0.86(SEM:2.65)、FC-TP は0.76・0.86(SEM:1.16)、PPTA 0.61・0.83(SEM:2.91)であった。【考察】 Landisら(1977)の基準に基づくと、本研究の結果からレントゲン画像を用いた膝関節アライメント(FTA・FC-FS・TP-TS・FC-TP・PPTA)の評価は、検者内信頼性・検者間信頼性共に非常に高い信頼性(almost perfect)、及び高い信頼性(substantial)が確保されていることが分かった。中でも、FTAは非常に信頼性が高く、それに比べるとFC-FS・PPTAは信頼性がやや劣る傾向にあった。今回は膝OAを対象としたために関節面は不正な変形を呈している対象者がほとんどであった。そのため関節面を指標に含む計測項目においては、検者による指標の捉え方にバラつきが生まれたと考えられる。この様な理由から、今回は関節面を指標として用いないFTAのみが非常に高い信頼性を得たものと推察される。今回の結果を膝OA以外にも適用する場合、関節面の変形が軽度な場合のアライメント評価では更に高い信頼性が得られるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果から、膝OAにおけるレントゲン画像を用いた、FTA・FC-FS・TP-TS・FC-TP・PPTAの評価は、全ての項目で検者内・検者間共に高い信頼性が確保されていることが分かった。中でもFTAは信頼性が非常に高く、それに比べるとFC-FS・PPTAは信頼性がやや劣る傾向にあった。このような特徴を考慮して、レントゲン画像を用いた膝関節アライメントの評価を行う必要性がある。