抄録
【はじめに、目的】 臨床において後屈時痛を呈する腰痛症例は頻繁に観察される。従来から後屈時痛群の要因として椎間関節性、脊椎分離症性、脊柱管狭窄症性、あるいは仙腸関節性など様々な報告がなされている。我々は、後屈時痛群から腰椎椎間関節性疼痛の鑑別方法として青木らが提唱する腿上げテストを腰神経後枝内側枝ブロックにて検討し、有効性を報告した。結果として椎間関節性疼痛と腿上げテストは強い相関性を示した。しかし、椎間関節性疼痛は椎間板変性が先行して生じ椎間板の荷重能力の低下により代償的に椎間関節への荷重が増加することにより疼痛が生じてくると考えられている。また、椎間板変性は椎間関節の屈性と相関していることが報告されている。椎間板変性が椎間関節の屈性による運動時の不均等なストレスで生じるのならば、屈性による不均等なストレスは椎間関節に過剰な負荷を与え疼痛の要因になるのではないかと考えられる。今回後屈時痛を主訴とする症例を懐古的に選択し、椎間関節性疼痛と屈性の関係についてMRI画像を用いて検討したので報告する。【方法】 対象は罹病期間が3カ月以上を有する慢性腰痛症例で、体幹自動運動テストにて後屈時痛を主訴とする50例(内訳:陽性20例【男性12例、女性8例】、陰性30例【男性20例、女性10例】、平均年齢49±14.9歳)である。除外項目として明らかな神経学的脱落所見を呈する症例、脊椎すべり症、脊椎の炎症、重度の側彎、脊椎の手術を経験している症例を除外した。評価項目として、椎間関節角度の左右差、椎間板変性を評価した。椎間関節性疼痛群と非椎間関節性疼痛群の分類方法として腿上げテストを用い、陽性を椎間関節性疼痛、陰性を非椎間関節性疼痛とした。MRI画像は、1.5TのMRIを使用し、撮影姿勢は背臥位、腰椎MRIT1強調画像横断面の椎間板中央のレベルで、棘突起を通る矢状方向への中心線を基準に椎間関節前縁と後縁を結んだ線が交わる部位でL1/2レベルからL5/S1レベルの椎間関節角度を測定し、屈性を左右の椎間関節の角度差で比較した。椎間関節屈性の値はDucらの研究から以下の3群に分類【屈性なし:6度以内、屈性+(中等度の屈性6-11度)、屈性++(重度の屈性11度以上)】した。椎間板変性は腰椎MRIT2強調画像正中矢状断を撮影し、変性の程度を信号強度に基づき5段階に分類(Pfirrmann分類)した。【倫理的配慮、説明と同意】 症例には、当院の倫理規則に従いこの研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。【結果】 椎間関節性疼痛群ではL1/2レベルで平均9.4°(+)の屈性、L2/3レベルで平均7.2°(+)の屈性、L3/4レベルで平均10.3°(+)の屈性、L4/5レベルで平均11.5°(++)の屈性、L5/S1レベルで11.5°(++)の屈性であった。非椎間関節性疼痛群ではL1/2レベルで平均8°(+)の屈性、L2/3レベルで平均8.3°(+)の屈性、L3/4レベルで平均8.9°(+)の屈性、L4/5レベルで平均9°(+)の屈性、L5/S1レベルで10.8°(+)の屈性であった。Pfirrmann分類では、椎間関節性疼痛群ではL1/2レベルで平均2.2、L2/3レベルで2.5、L3/4レベルで平均3.2、L4/5レベルで平均3.9、L5/S1レベルで3.5であった。非椎間関節性疼痛群ではL1/2レベルで平均2.5、L2/3レベルで2.6、L3/4レベルで平均3.1、L4/5レベルで平均3.8、L5/S1レベルで3.4であった。屈性では椎間関節性疼痛群と非椎間関節性疼痛群の2群間にt検定で有意差は認められなかった。また、椎間板の変性も椎間関節性疼痛群と非椎間関節性疼痛群で差は認められなかった。【考察】 屈性とは椎間関節方向の左右差と定義されており、椎間関節屈性に関しては様々な報告がなされている。例えば、屈性は椎間板ヘルニアと椎間板変性において相関を示すと報告がされている。また、生体力学的研究では屈性は剪弾力を増加させることで腰痛の危険因子としての可能性が示唆され、腰椎変性変化の素因となるとされている。これらの事から屈性が腰椎の運動時に与える影響は大きく、椎間関節の疼痛発生要因になるのではないかと考えた。今回の結果では、屈性は椎間関節性疼痛群と非椎間関節性疼痛群の両群において平均ではほぼ等しい数値となったが個々での差が大きく、有意差は認められず椎間関節性疼痛群と屈性の間に相関性は無い事が確認された。椎間板の輝度では屈性の高い部位で椎間板変性が進んでおり、他の研究者の結果を肯定する形となった。画像診断の信頼性はNachemsonらの報告によると2割程度であるという報告もされており、今回の結果でも画像診断から椎間間節性疼痛を予測することは難しくNachemsonらの報告を肯定する結果となった。【理学療法学研究としての意義】 今回の結果から、画像診断の所見と臨床症状は相関しないことが確認された。このことから、理学療法を展開していくうえで理学所見を重視して治療を展開していくことが望ましいと証明された。