抄録
【はじめに、目的】 われわれは第46回日本理学療法学術大会において腱板断裂術後患者のうち肩甲骨位置異常を呈した症例は腱板機能の低下を高頻度に伴うことを報告した.畑らは術後の肩甲骨位置異常が腱板断裂術後において肩甲骨の正常な動きの獲得を妨げる原因の1つとなりうると報告しているが,術前の肩甲骨位置異常についての報告はわれわれが渉猟した範囲ではなかった.今回,腱板断裂に肩甲骨位置異常を伴う症例の特徴を明らかにする目的で調査したので報告する.【方法】 腱板断裂と診断された29例29肩を,安静座位で脊椎から下角までの距離の健患差(以下,SSD差:Spine-Scapula Distance差)が1cm以上変位している症例15例(以下,位置異常群)と,1cm未満の14例(以下,正常群)の2群に分類した.2群間で性別,年齢,罹患側,受傷原因,罹病期間,断裂サイズ,運動時痛の有無,肩関節可動域(屈曲・伸展・外転・内転・下垂位外旋・90°外転位外旋・下垂位内旋・90°外転位内旋・水平伸展および水平伸展),肩関節疾患治療成績判定基準(以下,肩JOAスコア)および肩甲骨内側筋の筋電図所見の10項目について比較検討した.筋電図測定ついては表面筋電計MyoSystem 1400A(Noraxon社製)を用いて測定した.測定肢位は座位とし,肩甲骨上部内側筋群(以下,上部線維),肩甲骨中部内側筋群(以下,中部線維)および肩甲骨下部内側筋群(以下,下部線維)を測定筋とし,肩甲骨内転の最大等尺性随意収縮3秒間を3回計測した.得られた筋電波形を整流平滑化し,筋電図積分値(以下iEMG)を求めた.得られたiEMGを健側のiEMGにて正規化し,%iEMGを算出した.統計学的解析は性別,年齢,罹患側,運動時痛の有無および受傷原因にはχ2検定を,断裂サイズ,罹病期間,肩関節可動域,肩JOAスコアおよび%iEMGにはMann-Whitney’s U test用いて行い,有意差5%未満を有意差ありとした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の内容をすべての対象者に説明し,同意を得た.【結果】 性別,年齢,罹患側,受傷原因および罹病期間においては2群間で有意差を認めなかった.断裂サイズは位置異常群が平均4cm,正常群が平均2.4cmで前者が後者より有意に大きかった(p<0.05).運動時痛は位置異常群15例,正常群が8例で,前者が後者より有意に痛かった(p<0.05).可動域に関して,屈曲は位置異常群139.4°,正常群152.8°,外転は位置異常群100.0°,正常群123.9°,90°外転位外旋は位置異常群37.1°,正常群65.6°,下垂位外旋は位置異常群29.2°,正常群46.6°,水平伸展は位置異常群2.8°,正常群16.1°であり,前者が後者より有意に制限されていた(p<0.05).しかし伸展,内転,90°外転位内旋,下垂位内旋および水平屈曲においては2群間で有意差を認めなかった.肩JOAスコアにおいては2群間で有意差を認めなかった.%iEMGに関して,上部線維は位置異常群が正常群より有意に過活動となっており,中部と下部線維は位置異常群が正常群より有意に活動が低下していた(p<0.05). 【考察】 今回の結果から,位置異常群は正常群より1.断裂サイズが大きい2.運動時痛を訴える症例が多い3.屈曲・外転・下垂位外旋・90°外転位外旋および水平伸展方向の可動域制限4.肩甲骨内転筋上部線維の過活動と中部・下部線維の活動低下などの特徴を認めた.以上のことから,断裂サイズが大きい症例は断裂した腱板の機能を代償するために外在筋である三角筋,僧帽筋,肩甲挙筋が過剰に緊張するので肩甲骨内転筋上部線維の過活動と中部・下部線維の活動低下を引き起こし,これによって肩甲骨は前傾と上方回旋を呈し,肩甲骨の後傾を要する屈曲・下垂位外旋・90°外転位外旋および水平伸展方向の肩関節運動が制限されたと推察した.さらにこれらの動きの制限が運動時痛を誘発したのではないかと考えた.【理学療法学研究としての意義】 腱板断裂サイズが大きい症例には肩甲骨位置異常を伴う可能性が高く,それは関節可動域制限,運動時痛および肩甲骨内転筋活動の不均衡を生じる可能性が高いことが分かった.これらのことは,非手術的に治療する場合には当然知っておかなければならない特徴であり,手術を行う場合には術後後療法のメニュー作成において考慮すべき特徴であると考える.