抄録
【はじめに、目的】 血友病は、先天性の血液凝固異常で血液凝固因子の欠乏により止血が困難となり、関節や筋肉など様々な部位での出血を繰り返す疾患である。関節出血を繰り返せば、次第に関節症が進行し、患者のADLに大きな障害をもたらす。その中でも膝関節は関節出血の好発部位であり、出血により重度の関節障害を呈し、TKAを施行し経過良好であった一症例を以下に報告する。【方法】 症例紹介:29歳男性。診断名は重症血友病B、血友病性左膝関節症でHCVを合併している。主訴は左膝可動域制限による歩行障害、疼痛であった。Target jointは左膝、左足関節でDe Palmaの分類においてGrade IVであり重度の関節障害を呈していた。2月19日にTKA施行し術後1日目より起立訓練、ROM訓練、筋力訓練開始となったが、骨萎縮が著明で骨強度の低下があり、屈曲ROM、荷重に関してはmildに開始となった。術後3日目より歩行開始し、21日目で自宅退院となった。運動療法は段階的な下肢筋力トレーニング、膝・足関節可動域訓練、ハムストリングス、腓腹筋の徒手的ストレッチ、荷重訓練、歩行訓練、インソール処方を実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき本研究に関する内容説明を実施し、患者本人より同意を得た。【結果】 術前のROMは左膝関節屈曲100°、伸展-30°、左足関節背屈-10°、底屈40°で著明な制限が生じていた。術後一日目では左膝関節屈曲70°、伸展-30°、左足関節背屈は-20°と著明な制限がみられた。膝関節屈曲時には術創部、大腿直筋の伸張痛が強く生じ、伸展時にはハムストリングス、膝窩部、腓腹筋起始部周囲に伸張痛が強く生じていた。筋力はMMTで左大腿四頭筋1、腓腹筋1であった。3日目より歩行開始し4日目でロフストランド杖自立、術後13日目より1cm補高靴使用し片手ロフストランド杖歩行自立した。退院時評価では、左膝関節屈曲105°、伸展-5°、左足関節背屈-10°まで改善みられ、大腿四頭筋筋力3、腓腹筋3まで改善みられた。術後1ヶ月でT字杖歩行可能となり、術後4ヶ月で膝屈曲125°、伸展-5° 足関節背屈-10°と改善している。現在本症例は5mmのインソールを使用し独歩も可能となっている術後の止血管理として、血液製剤はノバクトを使用し、午前10時と午後10時の2回定期補充を実施し、止血コントロールは良好であり、APTTの値も正常範囲内、第IX因子活性値も正常範囲内で推移し、術後関節内出血、筋肉内出血は生じなかった。術直後は製剤の投与量も多かったが、インヒビターの出現することなく経過した。【考察】 本症例は血友病性関節症により、関節変形が著明であり、下肢のアライメント異常が著明であった。膝関節は内反変形し、関節軟骨は破壊され、関節裂隙はなくなっていた。PF関節もpatellaの変形が著明であり術前はpatellaの可動性はほぼない状態であった。そのため、筋などの膝関節周囲の軟部組織は短縮し、術後において、軟部組織性の制限が最大の障害となった。腓骨は後方に捻転し、それにより腓腹筋の短縮も著明であり膝・足関節可動域に大きな制限因子となっていた。早期より足関節、膝関節ROM訓練、筋のストレッチを積極的に実施したことにより、ここまでの改善が得られたと考える。また長年膝屈曲位で杖歩行しており、荷重関節に荷重はされず、骨萎縮、抗重力筋の筋萎縮も著明であり、筋力強化に於ても期間を要した。本症例は足関節症も合併しており、足関節の可動域制限も著明であり、膝関節可動域においても強い影響を与えていたと考えられる。血友病のリハビリにおいて、患者のtarget iointは複数あることが多く、下肢では膝・足関節が併発していることが多い。そのため隣接関節へのアプローチも実施していかなければ、良好な治療成績は上げられないと考える。また術後の出血コントロールも重要であり、西田らは血液製剤使用後10~15分後に凝固因子は最大の活性値を出すと述べており、それに合わせたリハビリの実施などの配慮も必要である。今回はリハビリ実施中、実施後の出血もなく実施することができ、良好な治療経過となったと考える。【理学療法学研究としての意義】 現在血友病の治療を行っている医療機関は少なく、血友病治療に携わっている理学療法士も少ないのが現状である。そのため今回の症例報告で血友病医療、リハビリテーションについて知ってもらうことが、血友病治療の今後の発展につながっていくと考える。