理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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見当識障害と大腿骨近位部骨折の歩行予後
石井 啓介松永 浩隆寺戸 一成
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p. Cb0755

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抄録
【目的】 高齢者の大腿骨近位部骨折患者の歩行予後に影響する因子については様々な先行研究がなされており、年齢、受傷前の歩行能力、認知症が影響するとの報告が多い。その中でも特に認知症の影響は大きいとされている。しかし、認知症には見当識、記憶等の様々な症状、障害があり、そのどれが歩行予後に影響しているかについての報告は少なく、入院中にどういった予防・改善アプローチを行うべきかについては不明な点が多い。  そこで、本研究ではMMSEの検査結果を用いて、各検査項目別に比較し、どの障害が最も退院時の歩行予後に影響しているかについて検討した。【方法】 対象は平成21年4月から平成23年9月までの期間に当院にて手術・リハビリを施行し、当院から直接自宅退院、又は地域連携パスにて転院後に退院時歩行能力調査が可能であった大腿骨近位部骨折患者のうち、受傷前に歩行レベルであった102名(男性7名、女性95名)、平均年齢83.7±7.7歳、平均在院日数は89.8±35.7日である。対象を退院時歩行獲得群と退院時車椅子群の2群に分け、術後2週時点で実施したMMSEの検査結果を、それぞれ目的とする検査項目(見当識10点/記憶6点/計算5点/言語8点/構成1点)に分け、2群間で比較検討した。統計学的解析には各項目別の単変量解析としてMann-Whitney検定を用いた。有意差が認められた項目を説明変数、退院時歩行獲得の有無を従属変数とした多変量解析としてロジスティクス回帰分析を行った。各検定の有意水準は5%未満とした。また、多変量解析にて有意差がでた項目についてROC分析を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の趣旨などを口頭にて説明し、同意を得た。また、研究を目的とした地域連携パス情報の使用については、入院時に書面にて対象者または家族へ十分な説明を行い、同意を得た。【結果】 歩行獲得群は平均年齢82.2±7.6歳、平均在院日数90.3±33.1日、車椅子群は平均年齢89.2±5.7歳、平均在院日数は87.7±45.9日であった。在院日数に有意差はなかったものの、年齢には有意差がみられた(t検定)。MMSEの平均点は(歩行獲得群23.2点/車椅子群12.5点)、各検査項目別の平均点では見当識(7.1点/2.6点)、記憶(4.6点/2.6点)、計算(3.0点/1.1点)、言語(7.7点/5.7点)、構成(0.9点/0.5点)であり、単変量解析では全項目で有意差がみられた(P<0.01)。しかし、多変量解析では有意差がみられたのは見当識の項目だけであった(P<0.01)。また、見当識の項目にて実施したROC分析の結果では、カットオフポイント4/10点、感度77%、特異度85%であった。【考察】 今回のMMSEの項目別の比較結果では見当識の項目が最も歩行予後に影響している結果となった。大腿骨近位部骨折の患者は高齢であり、転倒により救急搬送にて入院・手術となる患者が多く、入院中に見当識障害が生じる症例もみられる。見当識障害は時間と空間の認識、判断障害であり、障害が生じることで「入院中である」等の患者自身の状況認識と「歩きたい」等の将来展望が描けず、結果としてリハビリに対する理解不足、意欲低下につながっていると考えられる。これらの原因でリハビリが実施困難となり歩行予後が不良になっているのではないかと考えられる。MMSEの他の検査項目に有意差がみられなかったのは、高齢で脳萎縮はみられても、言語や構成等の脳の局所的な器質的障害が生じている患者が比較的少ない為ではないかと考えられる。また、今回の結果では年齢による有意差もみられた。高齢の患者は見当識障害を生じやすいことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 今後高齢社会を迎え、高齢で認知症症状を有する大腿骨近位部骨折患者は増加することが予想される。MMSEの見当識項目の評価は歩行予後予測に有用であり、チームアプローチとして見当識障害を予防・改善していくことが必要であることが示唆された。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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