理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
乳癌術後続発性リンパ浮腫発症因子についての検討
渋谷 寿代守山 成則小田 拓見井口 雅史八幡 徹太郎
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Cb1126

詳細
抄録

【はじめに、目的】 乳癌術後の続発性リンパ浮腫発症に関して,様々な報告がなされてきている.中でもリンパ浮腫の発症率は20%~50%と幅広く報告がされている.また,乳癌術後のリンパ浮腫を発症原因となる因子に関しては,種々の報告があり,臨床でも患者教育に使用されている.当院では乳癌患者を対象とするチーム医療を行っており,リンパ浮腫の患者教育も行っている.我々はそれらの発症因子がリンパ浮腫への理学療法治療効果にどんな影響を及ぼしているかを第19回日本乳癌学会学術総会で報告し,リンパ浮腫発症後できるだけ早期に理学療法を行う事が理学療法治療効果を高めることがわかった.そこで本研究では,乳癌術後続発性リンパ浮腫発症とその原因となる因子との関係性がどのようなものか,当院の乳癌術後患者で調べ知見を得ることを目的とした.【方法】 対象は,当院で2009年1月~2011年6月までに乳房切除術またはリンパ節郭清術を行った277名282肢を対象とした.平均年齢は,57.2±13.5歳であった.全例女性であった.この対象のうち,リンパ浮腫を発症したのは20名20肢であった.平均年齢は57.0±12.1歳であった.この20名をリンパ浮腫発症群,リンパ浮腫を発症していない257名をコントロール群とし,リンパ浮腫の発症に関連する因子といわれている項目として,術側,術式,リンパ節郭清数,リンパ節郭清範囲,手術時の年齢,体格指数(BMI),術後放射線療法の有無,化学療法の有無について調査した.それぞれの発症因子について,2群間で比較検討を行った.統計学的検討については,各項目において,t検定またはχ二乗検定を行い検討した.有意水準は,0.05とした.【倫理的配慮】 本研究は,金沢大学医学倫理委員会の承認を得て行った.また,今回の検討により収集された情報は,本研究のみで使用し個人が特定できないように配慮した. 【結果】 当院で乳癌手術を受けた患者について,続発性リンパ浮腫の発症率は7.1%であった.2群間において ,リンパ節郭清範囲,化学療法の有無の因子について,有意差を認めた.リンパ節郭清範囲の広い方が,リンパ浮腫発症の割合が有意に高く,化学療法を行っている症例が行っていない症例より,リンパ浮腫発症の割合が有意に高かった.【考察】 本研究では,先行研究でリンパ浮腫の発症因子ととらえられている項目の中で術式,BMI,放射線療法については有意差がみられず,発症因子として関連が低いとする結果となった.しかし,リンパ節郭清範囲,化学療法の有無については,2郡間で有意差をみとめ,発症因子となりうると考えられた.これは,先行研究と同様の結果であった.しかし,郭清範囲が狭い症例でもリンパ浮腫を発症している現状がある.この原因について今後研究していく必要があると考えられた. また当院のリンパ浮腫発症率は7.1%と他論文の報告と比較しても低い値であった.当院では,乳癌患者に対し,医師,看護師,理学療法士,薬剤師など他職種からなるチームを作り,チームアプローチを行っている.理学療法士だけでなく,診察,検査の際に他の医療従事者がリンパ浮腫の発症,増強が疑われる症例を早期に発見できるような連携に取り組んでいる.今回の結果からリンパ浮腫発症率が低い要因としては,そのチームアプローチによりリンパ浮腫の発症を有効に予防できていると考えられる.リンパ浮腫についての予防アプローチを行っていくことの重要性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 乳癌術後の続発性リンパ浮腫の発症因子の統計的な影響を明確にすることができた.このことより,発症因子の中でリンパ節郭清範囲が広く,化学療法を受けている症例は特にリンパ浮腫の予防に努める事の重要性が再度認識され,そのためにチームアプローチが有効であるということがいえる.

著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top