理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
乳癌術後における肩関節ROM改善経過の標準化の試み
守山 成則小田 拓見渋谷 寿代井口 雅史八幡 徹太郎
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キーワード: 乳がん術後, 肩関節, ROM
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p. Cb1125

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抄録

【はじめに.目的】 乳癌術後には,肩関節のROM制限が発生するが,ほとんどが短期間の制限である.ROM障害の改善は,ROMの改善前後に起こる筋機能改善に影響する.しかし,肩関節ROMの改善経過に関して標準化されたものは我々の調べうる限りみられない.今回,乳癌切除術術後の肩関節屈曲ROMの改善経過を標準化し,乳癌術後のPT治療期間の標準化に関する指針を作ることを目的に,当院乳癌切除術術後患者の状況を後方視的に調べた.【方法】 対象は,当院で2009年1月~2011年6月までに乳房切除術およびリンパ節郭清術を施行され,術後,リハビリテーション部を受診し理学療法が処方された106名のうち,乳癌に対する初回手術であり,また,術前肩関節に異常のなかった64名68肢(平均年齢55.5±13.2歳)とした.全例女性であった.この対象について,術側,術式,リンパ節郭清範囲,年齢,体格指数(BMI),乳房切除術直後のリンパ浮腫の有無,手術日から当院リハビリテーション部受診日までの期間,について調査した.またROMに関しては,乳房切除術日から,肩関節屈曲(90°,120°,150°),外転(60°,90°,120°),外旋(45°,90°またはfull)が獲得された日数について調べた.得られた情報より,症例個々の要素と,肩関節ROM獲得時期とに相関があるかどうかを統計学的に検討した.統計学的検討については,各項目において,相関の有無を検討した.有意水準は0.05とした.【倫理的配慮】 今回の検討により収集された情報は,本研究のみで使用し,個人が特定できないように配慮した.収集した人物と情報の解析をした人間を別にする配慮を行った.本研究は,金沢大学医学倫理委員会の承認を得ている.【結果】 肩関節ROMの獲得日数に関して,屈曲(90°,120°,150°)については,平均9.2日±4.7,11.7日±7.9,22.5日±20.5であり,外転(60°,90°,120°)については,平均8.6日±4.6,11.4日±8.0,19.2日±18.3であり,外旋(45°,90°またはfull)について,平均8.8日±5.9,14.2±15.3であった.また手術から当院リハビリテーション部受診までの期間について,肩関節ROM獲得日数のほぼ全ての項目で正の相関が認められた.その他の症例個々の要素については,肩関節ROM獲得日数と著明な相関は認められなかった.【考察】 今回の研究により,肩関節ROMの獲得日数に関して,平均日数が示されたことにより,理学療法の目標設定における一つの基準が示す事ができたと考えられる.これにより,より効率的に理学療法を実施することができ,患者の負担軽減や医療費の削減に貢献できるものと考えられる.また乳癌術後患者の肩関節ROMの獲得時期について,手術後できるだけ早期に理学療法を開始した方が,改善が早い可能性があることが示唆された.これは術後の肩関節不動期間を少なくし拘縮の発生を抑えることが,可能な限り早期に理学療法を開始することで可能であると考えられる.しかし,術後創部の安定の問題などで理学療法が早期に開始できないことも多い.今後の検討課題として,手術後にリハビリテーション部を受診するまでの期間が遅延していく要因について,より詳細に研究をすすめていく必要があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 乳癌術後の肩関節ROMの平均獲得日数を示す事ができた.乳癌術後早期に理学療法を開始することが,肩関節ROMの改善に良い効果を示すものであると考えられた.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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