抄録
【はじめに、目的】 股関節疾患患者のリハビリテーションにおいては、股関節周囲筋や体幹筋の筋力の回復を図るとともに歩行を中心とした運動機能の改善を図る。このため、変形性股関節症(以下、股OA)患者や人工股関節置換術(以下、THA)後においては、定期的に筋力を測定し、個々の筋力の回復状況に応じた方法や負荷量でトレーニングを実施していくことが重要となる。先行研究において、股OA患者の股関節周囲筋力を定量的に評価した報告は多くあるが、股関節周囲筋を筋ごとに分けて筋力や筋萎縮の程度を詳細に評価した報告は少ない。また、股OA患者の保存療法やTHA術後の運動機能の向上には、体幹筋に着目したトレーニングが必要であるが、股OA患者の体幹筋について定量的に評価した報告も少なく、不明な点が多い。そこで、本研究の目的は、末期の股OA患者の股関節周囲筋および体幹筋における筋萎縮を各筋別に定量的に評価することとする。【方法】 末期の片側股OAと診断された40名(男性5名、女性35名、年齢63.5歳±10.7歳、身長154.6±6.4cm、体重54.2±9.8kg、BMI:22.7±3.9kg/m2)を対象とした。当院整形外科医の処方により放射線技師が撮影したCT画像から、A.Raschらの方法に従い仙腸関節最下端での水平断における画像を採用し、AquariusNET Server iNtuition Edition 8G(TeraRecon社製)を用いて各筋群の筋断面積の計測を行った。対象筋群は大殿筋、中殿筋、小殿筋、浅層体幹筋(腹直筋)の4群とし、患側と健側を測定した。得られた筋断面積から求めた患健比(患側筋断面積/健側筋断面積)×100(%)を筋萎縮率と定義し、それぞれの筋で算出した。統計処理には、各筋の患側と健側間の筋断面積の比較には対応のないt検定を、各筋群間の筋萎縮率の比較にはFriedman検定を用い、更にWilcoxon検定をHolm法にて補正した多重比較を用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け、各対象者には本研究の趣旨ならびに目的を説明し研究への参加に対する同意を得て実施した。【結果】 各筋の筋断面積測定の結果、大殿筋の筋断面積は患側2264.45±614.0mm2、健側2990.7±595.2mm2であり、中殿筋の筋断面積は患側1966.8±503.4mm2、健側2413.1±498.2mm2であり、小殿筋の筋断面積は患側612.4±243.5mm2、健側693.7±228.1mm2であった。同様に、腹直筋の筋断面積は患側357.8±113.7mm2、健側378.6±115.8mm2であり、全ての筋群において患側が健側に比べ有意に低い値を示した。また、各筋群の筋萎縮率は、大殿筋75.3±12.0(50.8〜99.2)%、中殿筋81.7±11.4(57.3〜101.5)%、小殿筋87.4±12.8(46.7〜110.9)%、腹直筋95.2±11.8(61.5〜123.5)%であり、多重比較の結果すべての筋群間にて有意な差を認めた。【考察】 筋力の定量的な測定方法として、機器を用いて最大筋力を発揮させた力を測定する方法が従来から用いられている。しかし、筋力測定では筋萎縮の程度を各筋に分けて詳細に評価することができない。そこで、本研究においては、CT画像を用いて股OA患者の股関節周囲筋の各筋での筋萎縮を評価した結果、大殿筋、中殿筋、小殿筋の順に筋萎縮率が大きかった。これらの結果から、股OAの保存療法やTHA術後のリハビリテーションでは、股関節外転筋の筋力の向上を図るとともに大殿筋の機能向上を目指した積極的なトレーニングを行う必要性が示唆された。また、本研究の結果より、末期の股OA患者の患側の筋萎縮は股関節周囲筋だけでなく体幹筋にも生じていることが明らかとなり、同時に体幹筋の筋力向上にも取り組む必要があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より、末期の片側股OA患者の大殿筋、中殿筋、小殿筋、腹直筋の筋萎縮率が明らかとなり、運動機能向上を図るための効果的なトレーニングの立案の一助となると考えられ、理学療法研究としての意義があるものと考えられる。