理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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胸椎モビライゼーションがシッティングバレーボールのブロック動作に与える影響
小牧 隼人大久保 鉄男小牧 美歌子小牧 順道
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p. Cb1153

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抄録
【はじめに、目的】 シッティングバレーボール(Sitting Volleyball:以下SV)は、床に臀部の一部を着けた状態で行なうバレーボールであり、戦争により負傷した兵士のリハビリテーションの一環として1956年オランダにて発祥した。健常者と障害者が同じコートに入って競技できる障害者スポーツとして楽しまれている。一方で、SV競技者には頸部から肩甲帯、腰部の症状が多いことも報告され、競技特性に応じたウォーミングアップ、障害予防が必要であると言われている。SVにおけるブロック動作は、肩関節の屈曲に体幹の伸展が加わり最高到達点が決まり、肩関節や体幹の可動域制限がブロック動作へ影響を与えることが考えられる。また、肩関節の屈曲最終域では、胸椎を中心とした脊柱の伸展活動が生じると言われ、肩関節疾患へのアプローチとして胸椎の伸展運動や姿勢再教育などが行なわれており、その関係が重視されている。そこで今回、SVのブロック動作への介入として、胸椎モビライゼーションの有用性を検討することを目的に、健常成人に対し胸椎モビライゼーションを実施し、実施前後の肩関節屈曲時の最高到達点、肩関節屈曲角度、肩甲棘-上腕骨間角度の変化を検討したので報告する。【方法】 対象は健常成人男性13名で、平均年齢は28.8±4.6歳、身長170.9±3.9cm、体重67.0±9.8kg。利き手は右11名、左2名。測定は下肢の影響を除くため股・膝関節90°屈曲位の端座位にて実施した。「手を出来るだけ高く挙げてください」と指示し、両肩関節を前腕回内外中間位にて屈曲させ、身長計を用い第3指最高到達点(以下最高到達点)を測定し、ゴニオメーターにて肩関節屈曲角度、肩甲棘-上腕骨間角度(Spino-Humeral角度:以下SH角度)を疲労による代償動作の影響を除くため、各1回測定した(全て利き手側)。測定後、腹臥位にて第1~12胸椎までMaitlandの提唱する背側からの関節モビライゼーション(PA-glide)を同一治療者がGradeIIIの強度にて10回×3セット実施。実施後、再度最高到達点、肩関節屈曲角度、SH角度を測定した。統計学的処理はモビライゼーション実施前後の変化を対応のあるt検定にて実施した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の実施に際し、対象者に目的、方法について説明し同意を得た。【結果】 モビライゼーション実施前の最高到達点が174.9±5.2cm、肩関節屈曲161.2±7.9°、SH角度120.4±5.9°であった。モビライゼーション実施後の最高到達点177.0±4.9cm、肩関節屈曲169.2±7.9°、SH角度124.2±6.1°。最高到達点、肩関節屈曲角度、SH角度全てにおいてモビライゼーション実施後に有意な増加を認めた。【考察】 今回の結果から、胸椎モビライゼーションにより胸椎の伸展可動域が改善し、最高到達点が向上したと考えられる。加えて、SH角度も増大していることから、胸椎のモビライゼーションは脊柱のみならず、肩関節の可動域にも影響を与えていることが考えられた。胸椎後弯の姿勢変化は、頭部前方位や肩甲骨外転位を生じ、僧帽筋上部線維や肩甲挙筋などの肩甲骨周囲筋の筋機能変化による肩甲骨の可動性低下、運動軸の変化を生じる。この状態での肩関節屈曲運動では過度の鎖骨の挙上による代償が生じると言われている。胸椎へのアプローチは、これらの筋の過活動や代償運動を抑制することで、肩関節の可動域にも変化を与えることが考えられた。SVのブロック動作は下肢による代償が困難なため、胸椎の伸展可動域制限がある場合には、最高到達点を向上しようとする際に肩甲上腕関節の過剰な屈曲や反復ストレスから肩関節疾患を発症する可能性があると予測される。今回の研究では直接的な効果を示すことは困難であるが、SVの競技力向上、障害予防の観点からも胸椎へのアプローチは有用であると期待される。【理学療法学研究としての意義】 胸椎モビライゼーションは、最高到達点や肩関節の屈曲可動域が向上したことから、SVのブロック動作の能力向上や障害予防として有効なアプローチの一つとなりうることが期待される。日常生活において車椅子や義足などを使用している競技者は、姿勢変化や機能障害などを有していることが多く、競技自体が身体へ悪影響を及ぼさないよう配慮が必要である。競技特性に応じたウォーミングアップや障害予防を具体的に検討し、より安全にスポーツを楽しめるようにしていくことは意義のある理学療法学研究であると思われる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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