抄録
【はじめに】 足関節底屈筋力は、ジャンプ動作などのスポーツパフォーマンス向上やアキレス腱断裂術後などのアスレチックリハビリテーション時に必要であると考えられているため、筋力向上を目的としたプログラムが組まれていることが多い。しかし、垂直飛びや幅跳びなどのジャンプ動作と、膝関節伸展筋力との関連性はあると述べられているが、足関節底屈筋力とジャンプ動作との関連性については不明である。また、足関節底屈筋力を計測する機器としてバイオテックスなどの等運動性筋力測定装置を使用して行っている研究が多いが、臨床場面やスポーツ現場では使用することが不可能である。本研究の目的は、健常者を対象に臨床で簡便に使用できるハンドヘルドダイナモメーター(以下HHD)で等尺性足関節底屈筋力(以下APM)を計測し、ジャンプ動作の評価指標としてAPM計測が有用であるかを検討することである。【方法】 下肢に外傷などの既往歴のない健常女性11名(年齢:24.6±1.9歳 身長:161.6±5.4cm 体重:53.9±4.9kg)の20肢を対象とした。APMはHHD (日本メディックス社製MICROFET2)を使用し、西上らの方法に準じ、腹臥位、膝関節伸展位、足関節底背屈中間位での等尺性収縮を2回計測し、大きい数値を採用した。その数値を体重補正し、Weight Bearing Indices(以下WBI)を算出した。ジャンプ動作については、スポーツを行う上で必要な高スピードの最大脚力として、片足での垂直飛びの高さ、幅跳びの距離、クィックネスとして前後ジャンプ(30cm幅を10往復する)の時間を計測した。なお各動作とも片脚立位を開始肢位とし、上肢の反動などは制限を設けなかった。統計学的分析は、片脚での垂直飛び、幅跳び、前後ジャンプとAPMとの関連性をピアソンの相関係数で検討した。なお有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の目的等に関しては、対象者に十分な説明を行い、同意を得て実施した。【結果】 垂直跳び:25.4±3.5cm、幅跳び:118.4±15.7cm、前後ジャンプ:7.8±0.8sec、APM:0.73±0.08であった。3種のジャンプとAPMとの相関係数はr=0.22、幅跳びr=0.17、前後ジャンプr=-0.27であった。【考察】 本研究結果からAPMと3種のジャンプ動作との関連性は認められなかった。垂直跳びや幅跳びと関連性がなかった理由としては、より背屈位からの足関節底屈収縮であることや、Noyesらが述べるように膝関節伸展筋力の影響が大きいと考えられる。前後ジャンプと関連性がなかった理由としては、APMに加えて収縮スピードや反応速度などの要因が含まれるためと考えられる。また、福永はジャンプ動作のパフォーマンスは腱の粘弾性に影響されると述べており、筋出力だけではなく腱機能に影響されたことが予測される。アキレス腱断裂術後(以下ATR)患者(術後経過期間:32.5±7.1週)において、片脚踵あげの高さとAPMには関連性があることが認められている。つまりAPMは、片脚踵上げのように動作レベルの低い課題に関しては評価指標になりえるが、ジャンプ動作のように動作レベルの高い課題に関しては評価指標としての有用性はないことが示唆された。本研究は健常者を対象として行っているため、今後は腱機能に問題があると考えられるATR患者において、APMとジャンプ動作の関連性について確認し、術後のアスレチックリハビリテーションにおいてもAPMは評価指標にならないかを確認する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究では健常者において、ジャンプ動作の評価指標としてAPMは有用でないことが示唆された。ゆえにジャンプ動作の向上を図る場合などにAPMの向上を目的としたプログラムを考える必要はなく、他因子に着目したプログラムを考えるべきである。