理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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腹腔内圧コントロールエクササイズがドロップジャンプのパフォーマンスに及ぼす短期効果
河端 将司島 典広西薗 秀嗣
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p. Cb1159

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抄録
【はじめに、目的】 ドロップジャンプ動作は着地から即座にジャンプ動作へ移行することが要求される。腹横筋や内腹斜筋の筋活動は着地に先行して開始され(Kulas et al. 2006),腹腔内圧の増大を伴って着地局面における体幹の制動に貢献している(河端ら,2008)。本研究では下腹部の筋活動の賦活化を目的とした腹腔内圧コントロールエクササイズがドロップジャンプのパフォーマンスに及ぼす影響を検討した。【方法】 健常男子大学生14名を口頭指示群(Verbal群:7名,20±1歳,171±5cm,62±6kg)とエクササイズ群(EX群:7名,20±1歳,170±4cm,63±6kg)に無作為2群化した。全対象者はまず介入前試技として40cm台からの両脚ドロップジャンプ3試技を「できるだけ接地時間を短くかつ高く跳躍するように」行った。次に介入後試技として「着地直前に下腹部を瞬間的に固くして」と口頭指示のみを与えてから3試技行った(Verbal群)。EX群には介入後試技の前に,下腹部の筋活動を賦活化する目的で腹腔内圧をコントロールする以下のエクササイズを行わせた。モニター上で腹腔内圧曲線をフィードバックさせ,バルサルバ操作による随意的最大腹腔内圧(100%)とこれに対して25%,50%,75%に相当する腹腔内圧を3秒間維持する課題を各々3試行ずつ行わせた。腹腔内圧は圧力センサー(MPC-500,Millar社製)を用いて肛門から15cmの直腸圧を測定した(Kawabata et al. 2010)。表面筋電図を用いて内腹斜筋IO(上前腸骨棘から約2cm内下方),外腹斜筋EO(臍と前腋窩線の交点),腹直筋RA(臍から約3cm外側),脊柱起立筋ES(L3より約3cm外側)の右側4筋の筋活動を導出し,各々の最大等尺性筋収縮で正規化した(%MVC)。ドロップジャンプは地面反力計(9286型,Kistler社製)の上で実施し,鉛直地面反力(VF)を計測した。地面反力データからドロップジャンプ動作を4期に分類した{Pre-contact期(着地点より前100msの期間),Impact期(着地点から荷重-抜重変換点),Push-off期(荷重-抜重変換点から離地点),Jumping期(離地点から跳躍後着地点)}。各期における腹腔内圧と筋活動量を求め,またパフォーマンス指標として接地時間(Impact期+Push-off期),ピークVF,跳躍高を求めた。二元配置分散分析(2群×介入前後)にて交互作用の検定を行った。介入前後の差の比較には対応のあるt検定,群間の差の比較には対応のないt検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全対象者に本研究の主旨を十分に説明し書面にて同意を得た。【結果】 全ての項目に交互作用は認められなかった。介入前後の差の比較に関して,腹腔内圧については,EX群はPre-contact期での有意な増加(40mmHg→63mmHg)とImpact期での有意な減少(154mmHg→135mmHg)を認め,また両群のJumping期で有意な増加(EX群26mmHg→42mmHg,Verbal群34mmHg→52mmHg)を認めた。IO活動量については,EX群はPre-contact期で有意な増加(75%MVC→93%MVC)を認め,Verbal群はJumping期で有意な増加(47%MVC→66%MVC)を認めた。その他EO,RA,ESの筋活動量は両群とも介入前後で有意差を認めなかった。パフォーマンス指標については,EX群はImpact期時間が有意に短縮(93ms→82ms),接地時間が短縮傾向(206ms→189ms,p<0.1),ピークVFが有意な増加(712%BW→819%BW)を認め,跳躍高は有意差を認めなかった。一方Verbal群はいずれのパフォーマンス指標も有意差を認めなかった。群間の差の比較に関して,介入前後ともにPush-off期のIO活動量においてVerbal群がEX群よりも高値を示したが,その他の指標は有意差を認めなかった。【考察】 EX群は介入前に比べて介入後にPre-contact期での腹腔内圧とIO活動量が有意に増加し地面反力も有意に増加していた。一方Verbal群では介入前後でこれらの項目に有意差は認められなかった。両群の結果より,EX群は着地直前から下腹部の剛性を高めたことによって着地局面での地面反力を増加させることができたと推察される。またEX群のImpact期時間と接地時間が短縮した結果は,ドロップジャンプでは地面反力が大きい方が小さいよりも接地時間が短縮するという報告(Cowley et al. 2006)と合致する。したがって下腹部の筋活動の賦活化を目的とした腹腔内圧コントロールエクササイズはドロップジャンプの着地パフォーマンスに即時効果をもたらすことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 下腹部の剛性を高めることはドロップジャンプの着地パフォーマンス向上に貢献する可能性がある。これには口頭指示下の意識だけでは不十分で,下腹部の筋活動を賦活化させる必要がある。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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