抄録
【はじめに、目的】 AKA-博田法(以下AKA-H)とは、関節包内運動の異常を治療し、関節由来の関連痛を改善するものである。先行研究では、急性腰痛と慢性腰痛それぞれにおいて、AKA-Hによる効果が報告されている。しかし、腰痛を長期化させる因子については報告されていない。今回、関節包内運動の異常による急性腰痛の改善を遅延させる症例の特徴と、経時的変化について検討した。【方法】 対象者は、当院を受診し仙腸関節の障害により腰部周囲に痛みを有し、医師によりAKA-Hの処方がされた症例で、年齢20歳以上65歳以下、杖または独歩で日常生活が自立している症例とした。治療回数2回以下を短期終了群、3回以上を長期化群に分類した。短期終了群37名(男性14名、女性23名、年齢51.4±28.4歳)、長期化群23名(男性6名、女性17名、年齢49.0±26.0歳)であった。腰痛による障害の評価は、日本整形外科学会腰痛評価質問紙票(JOA Back Pain Evaluation Questionnaire:以下JOABPEQ)を用い、初診時と2回目受診時の治療前に評価した。JOABPEQの各項目と、年齢・性別・2回目受診までの期間・投薬の使用状況・慢性痛の有無について、二群間の比較検討を行った。なお、慢性痛は、問診により3ヶ月以上腰部周囲に疼痛を有し、急性疼痛の治癒期間を過ぎても持続する疼痛を有している症例を慢性痛ありとした。また、腰痛の程度の評価にはVASを用い、VASは、寝返り・立ち上がり・歩行の中で最も痛みが強い動作を行ったときの疼痛を測定した。VASとSLRは、初診時と2回目受診時の治療前後の変化を測定し、経時的変化の検討を行った。除外基準は、脊柱の手術歴・明らかな脊髄由来の神経症状・脳疾患の既往・精神科疾患の既往がある症例とした。統計学的処理は、Dr.SPSSIIを用い、二群間の比較はMann-WhitneyのU検定とχ2検定、経時的変化はFreedman検定および多重比較を行い、p<0.05をもって有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、本研究の目的を紙面と口頭で十分に説明し、同意を得た。【結果】 年齢・性別、2回目受診までの期間と投薬の使用状況に有意差はみられなかった。慢性痛の有無は、長期化群が有意に慢性痛を有していた(p<0.05)。短期終了群は、JOABPEQの各項目について有意に改善し、VASは、初診時の治療後と2回目受診時の治療前のみ有意差が認められなかったが、その他において優位に改善が認められた。(p<0.05)。長期化群は、疼痛関連障害と歩行機能障害において有意差はみられなかった。また、VASは、初診時の治療前と2回目受診時の治療前、初診時の治療後と2回目受診時の治療後において有意差を認めなかった。長期化群では、慢性痛ありの群と慢性痛なしの群の両群においても、疼痛関連障害と歩行機能障害は有意に改善せず、VASも初診時の治療前と2回目受診時の治療前において有意差を認めなかった。【考察】 本研究では、急性腰痛が長期化する特徴として、初回のAKA-Hにより2回目受診時までに動作時の痛みや歩行機能の改善が得られない症例と、慢性痛を有している症例があげられた。AKA-Hの効果は、治療後1週間を目安として効果判定すると定義されている。本研究により、AKA-Hは、急性腰痛症例の痛みやADL、心理面の改善を認めることが示された。しかし、長期化群では、VASにおいて、初診時の治療前と2回目受診時の治療前において有意に改善しなかった。このことから、初診時の治療前後に痛みの改善を認めても、2回目受診時に痛みの改善がみられないと急性腰痛は長期化することが示唆された。また、長期化群において慢性痛症例が有意に多かったことから、慢性痛を有していると、関節包内運動の異常を繰り返し、腰痛の改善を阻害することが示唆された。近年、慢性痛は、脳の可塑的な変化が生じることにより発症し、鎮痛薬や徒手療法の効果がないと報告されている。また、急性腰痛は6ヶ月経過しても約1/3は症状が残存しているとの報告もある。腰痛症例の増加を防ぐには、急性腰痛が慢性化する前に改善することが重要であり、今後もAKA-Hによる、急性腰痛症の早期改善への効果を検証していく必要がある。また、急性腰痛症例においても、慢性痛を有している、関節包内運動の異常を繰り返す症例には、動作指導など多方面からのアプローチを検討していくことが必要である。【理学療法学研究としての意義】 急性腰痛の改善が遅延する症例の特徴を抽出した。腰痛の長期化を予防するために、今回の研究は重要であり、今後の腰痛症例の治療に反映できる研究である。