抄録
【はじめに、目的】 腰椎椎間関節可動域制限は腰痛の原因の1つとして知られている。理学的検査から腰椎可動域制限所見が得られたとき、可動性改善を目的に関節モビライゼーション/マニピュレーションが使用される。これまで、頚椎マニピュレーション施行前後の分節可動域変化(Fernandez-de-las-Penasら)と自動可動域変化(Yeomansら)について検討はされているものの、腰椎モビライゼーション/マニピュレーション施行前後の分節可動域変化を検討した報告はほとんどない。本研究の目的は、腰椎側屈モビライゼーションによる分節可動域の即時的変化を単純X線撮影により検討することである。【方法】 健常男性被験者11名、平均年齢33.4歳を対象とした。単純X線撮影は医師の確認の元、診療放射線技師により撮影された。なお現在腰痛または関連する症状を示す者、腰痛治療歴がある者、外傷による腰痛歴がある者は除外した。単純X線撮影は1)中間位、2)モビライゼーション実施前、3)実施後の計3枚撮影した。モビライゼーションレベルはL3/4とした。モビライゼーションには腹臥位での腰椎側屈方法を使用し、腰椎モビライゼーションを使用しての臨床経験が10年ある理学療法士により実施した。最初に被験者は腹臥位においてL3、L4棘突起にマーカー(金属クリップ)をつけ、胸部を撮影台にベルトで固定した後、前後撮影を行い、対象分節を特定した。次に検者が両側下肢を保持し、L1/2分節まで力が伝わったことを確認するまで腰部の左側屈を起こし撮影された。胸部の固定をするためベルト以外に、助手により側方から胸部は固定された。左側屈モビライゼーションを実施後、再び左側屈位で撮影がおこなわれた。計測はFUJIFILM社製 SYNAPSEを使用し、診療放射線技師1名により実施した。計測者はL1/2、L2/3、L3/4、L4/5の各分節の椎体上面がなす角度を1枚につき2回計測した。計測者には被験者、モビライゼーション前後の特定が出来ないように盲検化し、ランダムに実施した。統計学的分析として、モビライゼーション前後の各分節角度の平均値の比較には対応のあるt検定を使用し、危険率5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ条約を順守し、院内倫理委員会の承認を得た。被験者には研究内容と目的を十分に説明し、「研究被験者参加に関する同意書」へ被験者、説明者共に署名し、それぞれ1部ずつ保管した。【結果】 L3/4モビライゼーション前後の分節可動域変化では有意な角度増加が認められた(P<0.01)。モビライゼーションをおこなっていないL1/2、L2/3、L4/5分節について有意差は認められなかった(P>0.05 )。【考察】 腰椎側屈モビライゼーションをおこなったL3/4分節のみモビライゼーション前後で可動域に有意差が認められた。モビライゼーションを加えていない分節では有意差が認められなかった。よって、腰椎側屈モビライゼーションにより即時的に可動域増大が起こることが示唆された。本実験では可動域の変化が認められたが、Goodsellらは、本実験とは違う腰椎棘突起を前方に押す(PA)モビライゼーションの効果において、疼痛の改善効果は認められたものの、可動域の改善効果は認められなかったことを報告している。この差異は、先行研究より証明されているようにGoodsellらが使用したモビライゼーションの方法は腰椎の分節に力が加わりにくく腰椎全体に力が加わりやすい手技であることが要因であると考えられる。このようなことから、本実験で使用した腰椎側屈モビライゼーションは分節への効果が高い手技であることが示唆される。【理学療法学研究としての意義】 腰椎側屈モビライゼーションは可動性の改善を目的として使用されているものの、実際に可動域改善が起こるのか検討されてこなかった。本研究は、臨床で使用している腰椎側屈モビリゼーションが局所の可動域改善を起こすことを示唆するものであり、臨床上大変価値ある研究として考えられる。