理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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変形性股関節症患者における歩行速度に影響を及ぼす因子の検討
田中 繁治玉利 光太郎元田 弘敏三谷 茂椿原 彰夫川上 照彦
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p. Cb1368

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抄録
【はじめに、目的】 変形性股関節症(以下;変股症)患者における歩行速度の決定因子は、過去に疼痛や関節可動域、筋力などの観点から検討されてきた。一方で変股症患者では腰椎前弯を引き起こす事や亜脱臼などによって脚長差が生じる事があり、これらは機能障害となる事がある。このような骨盤前傾、脚長差などの姿勢変化は、筋力や関節可動域と関連しているとされるが、歩行能力にも影響を与えるとされる。そのため、変股症患者の歩行速度を検討する上では、これらの形態的因子を含めるべきだと考えられるが、過去の報告では個別の相関関係を示しているものが多く、形態的因子を交絡因子として含めて検討した報告はみられない。本研究では変股症患者の歩行速度に着目し、筋力や関節可動域などの因子に骨盤前傾や脚長差などの形態的因子を含めて関連性を明らかにする事に加え、歩行能力関連因子のcut off値を明らかにし、保存療法時の目標値を明らかにする事を目的とする。【方法】 本研究は横断研究である。対象は臼蓋形成不全を有する女性片側性変股症患者28名である。対象者の平均年齢は65.0±9.3歳、平均BMIは25.2±3.3、患側の股関節機能を表すJOA scoreの平均値は43.4±8.2、X線像評価にて進行期4例、末期24例であった。従属変数として10m歩行速度(以下;10mWS)を快適歩行速度にて測定し、独立変数として筋力、関節可動域、疼痛、腰椎前弯角度、腰仙角、脚長差を測定した。筋力は両股関節屈曲、伸展、外転、膝関節伸展を対象に徒手筋力測定器(アニマ社製,μTas- F1)を用いて信頼性の確認された方法で測定した。筋力測定は2回行い、高い値を採用し筋力体重比(%)を求めた。関節可動域は両股関節屈曲、伸展、外転を対象に角度計を用いて5度刻みで測定した。疼痛はVASを用いて、10mWS測定時の股関節周囲の疼痛をマーキングさせmm単位で測定した。腰椎前弯角度、腰仙角、脚長差は立位で撮影されたX線画像を用いて計測した。統計解析にはPASW Statistics18.0(SPSS社製)を用いた。10mWSと年齢、疼痛、関節可動域、筋力とのピアソンの相関係数を求めた。従属変数である10mWSに対してどの程度独立した影響力を及ぼすかを検討するため、p<0.25であった独立変数および年齢、BMI、腰椎前弯角度、腰仙角、脚長差を交絡因子として投入し階層的重回帰分析を行った。また、これによって選択された変数の10mWS予測特性をROC曲線分析より求め、cut off値を算出した。全ての検定の有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は川崎医科大学倫理委員会にて承認を受けた。対象者には口頭および書面にて説明し同意を書面にて得た。【結果】 ピアソンの相関係数において10mWSと有意に相関を示したのは患側股屈曲、伸展可動域、患側股伸展筋力、健側股外転筋力であった。階層的重回帰分析の結果10mWSを決定する変数として第1に患側股伸展可動域、第2に脚長差が選択された。標準偏回帰係数は患側股伸展可動域で0.426、脚長差で-0.373であり、歩行速度の速い者ほど患側股伸展可動域が大きく、脚長差が小さいという結果となった。回帰式の自由度調整済み決定係数R2乗は0.583。VIF値は1.433~2.234。歩行速度(52.3m/min以下)の識別精度が最も高い患側股伸展可動域および脚長差のcut off値は、患側股伸展可動域で7.5°、脚長差で12.5mmであった。【考察】 10mWSに影響する因子として先行研究では、いずれも筋力が重要とされているが本研究ではどの筋力も選択されなかった。今回、患側股伸展筋力および健側股関節外転筋力は単相関では有意な相関関係にあったにも関わらず、重回帰分析では独立した変数として選択されなかった理由は、過去の報告では交絡因子を含めて検討が行われていない事が考えられる。今回の交絡因子を1変数ごとに重回帰モデルへ投入した場合、腰椎前弯角度を投入する事で健側股外転筋力が除外されるという結果となった。つまり、これらの変数同士は相互に関連し合うものであり、筋力は歩行速度を決定する因子として関連はしているだろうが、独立して歩行速度を決定するものではないと考えられ、変股症患者の歩行速度を検討する上では形態的因子も含めて検討すべきだと示唆された。また、本研究では10mWSのcut off値を求めた。これは末期変股症を中心とした患者における目標値であるため全ての患者がこれ以上の状態を保持する事が有効とは言えないが、諸変数の中から最も歩行速度に寄与する変数を選択しcut off値を求めている事から保存療法時の1つの指標が得られたと考える。【理学療法学研究としての意義】 変股症患者の歩行能力に着目し、各因子との関連性およびcut off値を明らかにしたことで保存療法時の理学療法に寄与できると考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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