抄録
【はじめに、目的】 人工股関節置換術(以下THA)におけるADLや身体機能に注目した研究は多数報告されている。また患者満足度を把握する上で,歩行能力などの客観的な指標のみでなくQOLなどの主観的な指標を調査することが重要となっている。そこで今回の研究目的は,THA患者の術後経過で歩行能力とQOLに関連を認めるのか,について統計分析を行った。その結果,術後1年までの経過にて歩行能力とQOLに関連性を得たので報告する。【方法】 本研究のデザインは連続横断研究である。対象は2006年6月から2010年7月に当院にて初回THAを施行した片側変形性股関節症の女性であり,評価時期は術後3ヶ月,術後6ヶ月,術後1年とした。その中から疼痛,転倒の危険性のため歩行能力評価が困難な症例,さらにいずれかの時期で評価項目が実施できなかった症例は除外した。最終的に118例のデータを分析し,平均年齢は67.2歳±7.5であった。評価項目の歩行能力面は,10メートル歩行スピード(以下10m歩行),Timed Up&Go Test(以下TUG)とし,QOLの指標はSF-36v2を使用した。SF-36v2は身体機能(以下PF),日常役割機能(身体)(以下RP),体の痛み(以下BP),全体的健康感(以下GH),活力(以下VT),社会生活機能(以下SF),日常生活機能(以下RE),心の健康(以下MH)の8つの下位尺度を算出した。術後の変化量は,術後6ヶ月の値から術後3ヶ月の値を減じた値(以下6M-3M),および術後1年の値から術後3ヶ月の値を減じた値(以下1Y-3M)とした。統計処理はSPSS ver14.0を用いて歩行能力項目とQOL項目の変化量についてSpearmanの順位相関係数を求め,有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 外来定期検査にて検査結果内容と術後の経過を説明し,同意を得て紙面にて署名を頂いた。【結果】 歩行能力に関する6M-3Mの平均変化量(標準偏差)は,10m歩行-0.9(1.3)秒,TUG-0.6(6.1)秒であり,QOLに関する6M-3Mの平均変化量は,PF+4.6(11.7),RP+8.1(19.8),BP+2.4(8.1),GH+1.6(9.2),VT+2.0(14.1),SF+5.1(13.1),RE+5.7(13.0),MH+0.7(15.4)であった。歩行能力に関する1Y-3Mの平均変化量は,10m歩行-1.5(1.4)秒,TUG-1.7(1.6)秒であり,QOLに関する1Y-3Mの変化量は,PF+5.7(12.2),RP+7.9(13.1),BP+2.4(9.1),GH+0.9(10.3),VT+2.9(15.5),SF+3.8(14.0),RE+5.8(13.4),MH+0.4(14.8)であった。10m歩行における6M-3Mの変化量と有意に相関していたQOLに関する項目は,6M-3MのPF(ρ=-0.18,P<0.05),1Y-3MのRP(ρ=-0.24,P<0.01)であった。また,10m歩行における1Y-3Mの変化量と1Y-3MのPF(ρ=-0.23,P<0.05)との間に相関を認めた。一方,TUGにおける6M-3Mの変化量は,6M-3MのBP(ρ=-0.2,P<0.05)と有意に相関していた。1Y-3Mの変化量は,1Y-3MのPF(ρ=-0.3,P<0.01)との間に相関を認めた。【考察】 今回,当院でのTHA術後1年までの経過にて歩行能力とQOLの変化に相関を認めた。吉倉らは術後1年以上を経過したTHA患者で身体機能(歩行速度とTUG)と精神機能(SF-36)との相関を認め,術後1年以上を経過した場合には,応用歩行などのパフォーマンスを引き出すような訓練の方がQOLの向上に有効であると述べている。当院でのTHA術後1年までの患者には,定期検査にて歩行能力の改善に向けた筋力増強運動,バランス運動や歩行指導などを積極的に行う必要性を感じた。そのような指導を行うことで術後経過での歩行能力を改善させ,患者のQOLの向上につながるのではないかと考えた。今回は,分析対象を年代別に分類せず統計分析を行った。今後は対象を年代で分類することにより,それに沿った歩行能力に対する理学療法プログラムを指導できる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 THA術後1年までの歩行能力とQOLの関連を経時的に調査した報告はない。今回,術後1年までの経過を調査することにより,歩行能力の改善とQOLの向上に関連があることが示唆された。そのことは,術後1年までの定期検査にて歩行能力の改善に向けた理学療法プログラムを指導が必要であり,その結果としてQOLの向上につながることが示唆された。