理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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野球部員の肩甲骨位置の傾向と,肩甲骨位置と肩関節内外旋筋力との関係について
柳川 竜一成田 崇矢新井 法慶藤田 直樹
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p. Cb1392

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抄録
【はじめに、目的】 野球の投球動作はコッキング期・フォロースルー期において,過大なストレスが加わるとされている.そのため,肩関節内外旋筋群が低下していると,投球動作によって傷害が生じやすいとされている.また,肩甲骨位置により,肩関節内外旋筋力に変化が生じるとされている事から,投球動作時の傷害を考える上で肩甲骨の位置を把握する事は重要だと思われる.しかし,投球動作に関して肩甲骨位置と肩関節内外旋筋力の関係を示した報告はない.そこで,本研究は野球部員の肩甲骨位置の傾向と,肩甲骨位置と等速性収縮における肩関節内外旋筋力の関係性を明らかにする事で,投球動作時の傷害を予防する策の一助とする事を目的とする.【方法】 対象は,K大学準硬式野球部員(東都5部リーグ)29名(年齢19.1±1.0歳),K大学サッカー部員(山梨社会人サッカー3部リーグ)14名(年齢19.4±0.5歳),K大学一般大学生(高校から運動部に無所属の者)12名(年齢20.8±1.3歳).測定方法は,肩甲骨位置は野球部員・サッカー部員・一般大学生の3群で肩甲骨挙上/下制・回旋を測定・比較した.肩甲骨挙上/下制は,肩甲棘内側端水平直線と第3胸椎棘突起との距離で評価し,数値の増加を肩甲骨挙上とした.また,肩甲骨回旋は,第7胸椎棘突起と下角との水平距離から,第3胸椎棘突起と肩甲棘内側端との水平距離で評価し,数値の増加を肩甲骨上方回旋とした.肩甲骨位置と肩関節内外旋筋力の関係はBIODEXsystem3(Biodex Medical Systems,Inc.)にて肩関節90°外転位内外旋筋力(角速度180,300DEG/SEC)を測定した.その後,肩甲骨挙上/下制の距離を下制群,正中群,挙上群の3群に群分けし,肩甲骨回旋を上方・下方回旋群の2群に群分けして,それぞれの群で筋力を比較した.統計処理は肩甲骨位置の比較と,肩甲骨挙上・正中・下制群の筋力の比較は,それぞれ対応のない一元配置分散分析により検討し,有意差があったものはLSD法を用い多重比較を行った.肩甲骨上方・下方回旋群の筋力の比較は,対応のないT検定により比較した.いずれも有意水準は0.05未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 口頭及び文章にて研究の概要,方法等を説明し,被験者になるか否かを自由意志によるものである事を確認した.その後,研究の主旨に同意を得られた者に対し測定を行った.【結果】 肩甲骨位置で,有意な主効果が認められた項目は,肩甲骨挙上/下制(野球部員:-0.6±2.1cm,サッカー部員:-0.2±2.0cm,一般大学生:1.0±4.3cm)のみで,多重比較により野球部員が,一般大学生と比べ下制位にある傾向(P=0.08)が認められた.肩甲骨位置と肩関節内外旋筋力の関係で,有意な主効果が認められた項目は,肩関節外旋筋力(180DEG/SEC)(挙上群:23.1±6.2DEG/SEC,正中群:22.2±4.0DEG/SEC,挙上群27.1±7.4DEG/SEC)のみで.それ以外に関しては,有意差は認められなかった.多重比較により,肩関節外旋筋力では,挙上群が正中群と比べ有意に強く(P<0.05),下制群と比べ強い傾向にあった(P=0.05).【考察】 肩甲骨位置では,野球部員の肩甲骨位置が下制位にある傾向にあった.投球動作におけるフォロースルー期では,棘下筋や小円筋,三角筋後部線維等の肩関節後方線維に大きなストレスを生じるため柔軟性が低下するとされている.また柔軟性が低下する事で,フォロースルー期において肩甲骨の牽引力が過剰となり,肩甲骨が前方及び下方へ胸郭に沿って移動するとされている.よって,投球動作の多い野球部員の肩甲骨は,下制傾向にあったと考える. 肩甲骨位置と肩関節内外旋筋力の関係では,肩甲骨挙上群の肩関節外旋筋力が有意に強いという結果となり,野球部員の肩甲骨位置と肩関節筋力に関係は認められなかった.肩関節内外旋運動は,主に回旋筋腱板によって行われるが,その基盤である肩甲骨が不安定であると,肩関節の筋出力が最大限発揮されないとある.この事から,肩甲骨が挙上位の方が,他の位置よりも,広背筋や前鋸筋等の肩甲骨安定筋がより伸張され,肩甲骨を安定する事ができたため,筋力が発揮できたと考える.しかし,肩甲骨挙上位においても肩関節内旋筋力に有意差は認められなかった.これは,肩関節90°外転位では内旋筋群のひとつである肩甲下筋が肩甲上腕関節の安定化にも働く事や,内旋筋群は肢位が変化しても相互に代償する機能を持つ事により,筋力に有意差が認められにくいとされている.よって,肩甲骨位置が変化しても肩関節内旋筋力に影響がなかったと考える.【理学療法学研究としての意義】 今回の結果では,野球部員の肩甲骨位置の傾向と,肩甲骨の位置により肩関節外旋筋力が変化する事が明らかとなった.この事から,スポーツ選手に理学療法を施行する際,肩甲骨の位置を確認する必要がある事が示唆された.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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