理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
インステップキックの反復による足関節底屈制限のテーピングの持続効果
笹代 純平浦辺 幸夫前田 慶明篠原 博藤井 絵里高井 聡志森山 信彰
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p. Cb1393

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抄録
【はじめに、目的】 三角骨障害はサッカーやバレエに特徴的な疾患で、サッカーではインステップキック(以下、キック)に伴う足関節底屈の反復が原因とされている。保存療法のひとつとしてテーピングが使用されるが、これは過度の足関節底屈を制限し、関節後方へのimpingementを軽減することを期待している(平野ら、2005)。筆者らは、足関節底屈制限のテーピングがキックのボールスピードを低下させない可能性を明らかにした(2011)。しかし、キックを反復した際に何回までこのテーピングの運動制限の効果が持続するのかは不明である。本研究の目的は、足関節底屈制限のテーピング施行後に、キックを反復した際のインパクト時の足関節最大底屈角度の変化を明らかにすることである。仮説は、キックを反復することで徐々にテーピングの効果が減少し、インパクト時の足関節最大底屈角度が段階的に増大するとした。【方法】 サッカー経験のある男性6名(年齢24.4±4.0歳、サッカー歴8.8±4.0年、身長174.0±4.7cm、体重68.8±4.0kg)を対象とし、キックのインパクト時の最大足関節底屈角度とボール速度を測定した。キック反復開始前と100回反復終了後に、足部背側から第3中足骨中央部を徒手筋力計(アニマ社)によって40Nで圧迫した時の他動的足関節底屈可動域を測定した。なお、キック反復開始前の他動的足関節底屈可動域が15°となるように伸縮性のスプリットテープ3本(日東メディカル社) で足関節底屈を制限した。テーパーは1名の熟練した理学療法士が担当し、テープの張力はバネばかりを使用し40Nで一定とした。対象は課題動作として、全力のキックを約20秒に1回のペースで計100回反復した。キック反復開始前、50回反復終了後、100回反復終了後には3台のハイスピードカメラ(フォーアシスト社)を用い、各3回のキックの測定を行った。動作解析は撮影した画像から、動作解析ソフトDIPP-Motion XD(ディテクト社)を用いてDLT法で3次元座標を算出した。インパクト時の最大足関節底屈角度は、ボールが足部から離れる前後10ms間、ボール速度はボールが足部から離れた後10ms間の3次元座標から算出し各対象の平均値を求めた。統計学的分析は、反復前後の他動的足関節底屈可動域の比較には対応のあるt検定を用いた。キック反復開始前、50回反復終了後、100回反復終了後の3条件間でのインパクト時の足関節最大底屈角度、ボール速度の差の検定には一元配置分散分析を用い、危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1108)。対象には研究に先立ち十分な説明を行い同意を得た。【結果】 キック反復開始前の他動的足関節底屈可動域は14.7±1.0°であったのに対し、100回反復終了後は35.0±5.4°と約20°有意に増大した(p<0.001)。インパクト時の足関節最大底屈角度はキック反復開始前で30.8±6.2°、50回反復終了後で39.5±6.0°、100回反復終了後で39.5±6.4°と条件間に有意な差が認められた(p<0.05)。ボール速度はキック反復開始前で19.5±1.8m/sec、50回反復終了後で20.8±1.0m/sec、100回反復終了後で20.8±1.1m/secとすべての条件間に有意な差は認められなかった(p=0.184)。【考察】 キックを100回反復した後に、他動的足関節底屈可動域と、インパクト時の足関節最大底屈角度が有意に増大していたことから、キックの反復によりテーピング効果が減少することが確認できた。これに対して、50回反復終了後の時点で、インパクト時の足関節最大底屈角度が39.5°となっており、キック反復開始前と比べ8.7°の増大が認められたが、その後は変化していなかった。これは、筆者らの先行研究(2011)における、テーピングなしでキックを行った際の足関節最大底屈角度40.7°と非常に近い値を示していた。以上より、キックを50回反復した時点で足関節最大底屈角度を制限するテーピングの効果が持続できないことが示唆された。キックの反復回数が増えてもボール速度に変化が認められなかったことは、テーピングなしで行った筆者らの研究(2011)と同様の傾向であった。本研究により、テーピングによる足関節底屈制限の持続効果に限界があることが明らかになった。今後は、インパクト時の足関節最大底屈角度の制限を持続できるような新たな方法を検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 スポーツ理学療法領域において、サッカー選手の三角骨障害で起こる足関節後方でのimpingementに対しテーピングを行う際に、足関節底屈制限の効果が50回程度のキック反復によって減少することが示された意義は大きい。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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