抄録
【はじめに、目的】 成長期に生じるスポーツ障害は,tightnessや筋バランスの影響が一要因として考えられているが,先行研究からも明確な要因は示されていない。成長期のスポーツ障害は日常繰り返されるストレスにより引き起こされるものであり,動作における調整力の発達の未熟さが一つの要因になっていると考えられる。先行研究より,立幅跳びは調整力テストの成績と高い相関関係を示している。Osgood-schlatter病(以下,OSD)は成長期スポーツ障害の代表的な疾患であり,ジャンプ動作が疼痛誘発動作としてあげられる。そこで,本研究の目的は,立ち幅跳び動作におけるOSD患者の運動学的特徴を明らかにすることであり,着地時の上肢動作に着目し検討した。【方法】 対象は,OSD群10名(男性10名,平均年齢12.5±1.0歳),対照群10名(男性10名,平均年齢12.5±1.8歳)である。OSD群に関しては,本人及び親権者の同意,主治医の許可が得られた者とし,Victorian Institute of Sport Assessmentの得点が75点以上(スポーツ活動を実施してもよいと考えられる)の者とした。対照群としては,過去に下肢障害を有さない者とした。立ち幅跳び動作の測定は,全力跳躍距離の50%の距離で実施し,両足で踏み切り,両足で着地し,5秒間静止した施行を3回測定した。ハイスピードデジタルカメラ(CASIO EX-FC150)を使用し,サンプリング周波数120fpsで,左側方から動作の測定を行った。カメラの設置位置は,立ち幅跳び動作について一連の動作が撮影できる位置とし,距離はマットの左端から4m,高さは床から1mとした。着地における全足底接地時の上肢の位置およびその時点からの上肢運動の方向について動作分析を行い,パターン分類を行った。上肢の位置としては矢状面での肩関節運動を用いて,肩関節が屈曲位となっている場合を前方,伸展位となっている場合を後方と定義した。上肢動作の方向についても,屈曲方向へ動いている場合を前方,伸展方向へ動いている場合を後方と定義した。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者は主治医の許可を得た者で,被験者及び親権者に対して,口頭及び文書を用いて十分に説明を行い,同意を得た者とした。なお,本研究は群馬大学医学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 すべての対象において着地時の上肢動作から4つのパターンに分類できた。全足底接地時に上肢が前方に位置しており,その時点からの動作方向が前方である場合をパターン1,動作方向が後方である場合をパターン2とした。全足底接地時に上肢が後方に位置しており,その時点からの動作方向が前方である場合をパターン3,動作方向が後方である場合をパターン4とした。各群においてそれぞれのパターンを呈する割合は,パターン1では各群10%,パターン2ではOSD群が20%,対照群が30%,パターン3ではOSD群が10%,対照群が60%,パターン4ではOSD群が60%,対照群が0%であった。OSD群においてはパターン4を呈する割合が多く,対照群においてはパターン3を呈する割合が多くなった。【考察】 OSD群ではパターン4を呈する割合が最も多い結果となり,着地時に上肢が後方に位置し,重心が後方に位置しているのにもかかわらず,さらに上肢の運動方向も後方となっていた。上肢の位置や運動方向より,姿勢制御能力が不十分なため,重心位置を調節できていない可能性が考えられる。一方,対照群では,パターン4を呈する者は一人もおらず,着地の際に上肢が後方に位置していたとしても,上肢の運動方向は前方であり,適切な重心位置の調節が行えていると考えられる。先行研究より,ジャンパー膝の着地動作の特徴として,肩関節が伸展位であること,股関節の屈曲角度が健常群と比較して低下していることから後方重心となり,大腿四頭筋への負荷が増大しているといわれている。今回の結果からOSD患者における立ち幅跳び動作は,上肢の位置や運動方向より後方重心となり,大腿四頭筋の負荷が増大していると推測された。今後は股関節を含めた下肢関節角度を測定することで,関連を検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 今回の研究より,立ち幅跳び動作における着地時の上肢動作についてパターン分類を行うことが可能であった。さらに,OSD患者に特徴がみられたことから,パターン分類を行うことでOSD発生リスクのある者を簡単にスクリーニングすることができ,早期からアプローチを行うことで,予防として活用が可能となると考える。