理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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テーマ演題 口述
侵害受容性アプローチ
─関節リウマチのシングルケーススタディ─
西山 保弘工藤 義弘矢守 とも子中園 貴志岩松 尚美江崎 智哉工藤 公晴
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キーワード: 炎症関節, 徒手療法, 疼痛
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p. Cc0375

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抄録
【はじめに】 侵害受容性アプローチの定義は外部からの物理的刺激に対する筋骨格系組織の侵害受容性(ポリモーダル)の痛み感覚を利用した包括的治療である。筋骨格系疾患に対する徒手療法一つを取り上げても、治療部位や患部から離れた部分に痛み感覚が生じている。痛みは医学的には生体防御機構の組織損傷に伴う警告信号となる。しかし、その半面、東洋医学では末梢軟部組織を鍼灸刺激する事で鎮痛効果が得られることも知られており、各種のストレス刺激が鎮痛作用をもつことも報告されている。熊澤は、刺激鎮痛部位の多くは痛み伝達経路に近接していることから痛み機構におけるネガティブフィードバック的抑制機構の存在を示唆している。侵害受容性アプローチは、従来の痛みを伴わない徒手刺激よりも痛みを伴う徒手的刺激を用いる。筋骨格系への部位、筋間、筋腹表面、腱、骨表面などを最小限の徒手的圧迫刺激で最大の深部痛を誘発させる。治療部位は、マイヤーの筋筋膜経線、筋の収縮連鎖、筋の骨付着部、経絡、筋硬結部、有痛領域などの部位からの触診情報を総合判断し患部局所への有痛圧迫刺激を用いながら治療計画を組み立てる。今回、この侵害受容性アプローチで関節疼痛と腫脹が著明に軽減した関節リウマチの1例をシングルケーススタディで報告する。【方法】 症例は関節リウマチ(以下、RA)の70歳台女性で発症より40年経過している。右膝関節に著明な腫脹と疼痛を伴い歩行困難となる。研究デザインは第1基礎水準期(以下A1期),第1操作導入期(以下B1期),第2基礎水準期(以下、A2期),第2操作導入期(以下B2期)によるシングルケーススタディの反復型実験計画ABAB法を用いた。A1期は,リハビリ介入前の安静7日間を充て、A2期には侵害受容性アプローチを週5回の3週間実施した。A2期は10日間の安静間を取り、B2期は週3回を4週実施した。測定項目は痛みの測定にnumeric rating scale(NRS)、10m歩行所要時間、歩行量の影響を見るために万歩計歩数量、肉眼での腫脹の改善を見るため両下肢の写真を測定した。膝伸展制限は関節角度を測定した。尚、薬物療法は生物学的製剤未使用でA1期以前にプレドニゾロン0.5mgが増量されたが炎症反応C反応性タンパクは変化がないためリハビリ介入を開始した。効果判定は、グラフに測定値をプロットし、中央分割法にてCeleration Line(以下CL)を求め、目視にて分析した。【説明と同意】 対象者には、本研究における目的と方法を十分に説明し、同意を得た上で行った。【結果】 10m歩行所要時間のCLの傾きはA1期-0.001,B1期-0.3、A2期-0.01、B2期0.1であった。NRSのCLの傾きは、A1期-0.00001,B1期-0.3、A2期-0.01、B2期0.1であった。関節腫脹は、写真画像で誤差修正後A1期では明らかな左右差が認められたが、B2期では、左右差はわずかとなり改善された。右膝伸展制限は、-15度から-5度に改善した。期間中の歩数量は、平均で3849歩と歩行量は少なかった。【考察】 侵害受容性アプローチは、炎症関節周囲に対して痛みを伴う徒手的刺激を用いた。通常は、禁忌とされる腫脹関節周囲の筋間、筋腹表面、腱、骨表面など刺激を加えることにより関節腫脹の膨大、疼痛憎悪、歩行困難に陥ることが予想される。しかし、深部痛を最小限の徒手的圧迫刺激で最大の深部痛を誘発させる本アプローチは、腫脹と疼痛を伴うRA膝関節の介入直後から腫脹と疼痛を軽減し、結果10m歩行所要時間の短縮が認められた。これは、温灸や針以外の刺激ストレスも痛み機構におけるネガティブフィードバック的抑制機構を説明する可能性がある。本例はその後、週1回の侵害受容性アプローチで悪化することもなく安定した生活を送っている。【理学療法学としての意義】 本研究の意義は、侵害受容器(ポリモーダル)を刺激し深部痛を誘発することにより炎症を軽減する侵害受容性アプローチの効果についてシングルケーススタディABAB法を用いて報告した。侵害受容性アプローチは徒手療法領域で発生する痛みの出現の解釈と応用を考える上で意義があり、今後、理学療法領域において炎症性関節に対する新たな概念とアプローチを提言できる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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