理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
人工股関節再置換術後の日常生活における移動手段に関連する因子の検討
藤田 容子南角 学西村 純西川 徹柿木 良介秋山 治彦
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p. Ce0111

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抄録
【はじめに】 本邦では,人工股関節置換術(以下,THA)術後において,在院日数の短縮により最低限の日常生活動作(以下,ADL)を獲得して退院となる.特にTHA再置換術後に関しては,術後に荷重制限の設定や脱臼の回避のために,初回THAより術後の運動療法が積極的に実施できず,術後の股関節機能やADL能力の回復には時間を要する.このためTHA再置換術後患者の多くは,退院後にどの程度まで股関節機能やADL能力が回復するか不安に感じており,退院後の適切なADL指導が重要となる.しかし,THA再置換術後の退院後の日常生活における歩行の回復状況やこれに関わる因子を検討した報告は見当たらない.本研究の目的は,THA再置換術後1年の日常生活における移動手段と術前の運動機能および術後早期の荷重制限の有無やADL能力の関連性を検討することとした.【方法】 Hardinge法によりTHA再置換術を施行された40名(男性8名,女性32名,平均年齢:67.4±11.0歳,平均BMI:23.0±4.8kg/m2)を対象とした.術前の運動機能として,手術予定側の下肢筋力と歩行能力を測定した.下肢筋力の評価として,股関節外転筋力,膝関節伸展筋力を測定した.股関節外転筋力はHand-Held Dynamometer(日本MEDIX社製),膝関節伸展筋力はIsoforce GT-330(OG技研社製)にて等尺性筋力を測定し,それぞれの筋力値はトルク体重比(Nm/kg)にて算出した.また,歩行能力はTimed up and go test(以下,TUG)で評価し,歩行条件はできるだけ速く行うように指示した.術前の各運動機能の測定は,それぞれ2回行い,筋力は最大値,TUGは最小値をデータ処理に採用した.さらにTHA再置換術後の経過として,術後の荷重制限の有無および初回離床時における介助の有無を診療記録より後方視的に調査した.さらに,THA再置換術後1年における移動手段を調査し,日常生活において杖が不要な症例(以下,A群)と杖が必要な症例(以下,B群)の2群に分けた.統計処理には,各測定項目の両群間の比較には,対応のないt検定とカイ二乗検定を用いた。さらに,両群間で有意差を認めた項目を説明変数とし,THA再置換術後1年の日常生活における杖使用の有無を従属変数としたロジスティック重回帰分析を行った.統計学的有意基準は5%未満とした.【説明と同意】 本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け,各対象者には本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得て実施した.【結果と考察】 両群の割合はA群15名(37.5%),B群25名(62.5%)であった.年齢は,A群60.0±9.1歳,B群71.8±9.6歳でありA群はB群と比較して有意に低い値を示したが,BMIは両群間で有意差を認めなかった.術前の下肢筋力に関しては,股関節外転筋力は,A群0.56±0.29(Nm/kg),B群0.45±0.2(Nm/kg)であり両群間で有意差を認めず,膝関節伸展筋力は,A群1.76±0.69(Nm/kg),B群1.28±0.38(Nm/kg)でありA群はB群と比較して有意に高い値を示した. 術前のTUGに関しては,A群7.9±0.9秒,B群9.7±2.2秒であり,A群はB群と比較して有意に低い値を示した.また,カイ二乗検定の結果,免荷期間の有無と初回離床時における介助の有無に関しては,両群間で有意差を認めなかった.さらに,THA再置換術後1年の日常生活において杖使用の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析では,年齢および膝関節伸展筋力が有意な項目として選択され,TUGは組み入れても有意とはならなかった.THA再置換術後1年の日常生活において,杖を使用している割合は約6割で,初回THAを対象とした先行研究よりも高い割合であった.さらに,多変量解析の結果より,THA再置換術後1年の日常生活における移動手段に関わる因子として,年齢と手術予定側の膝関節伸展筋力が挙げられた.これらの結果は,THA再置換術患者に対して,適切な退院後のADL指導を行っていくための一助となると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 THA再置換術後におけるリハビリテーションを円滑に実施していくためには,術後の歩行の回復状況を予測しておくことが重要である.本研究の結果は,THA再置換術後の退院後のADL指導を実施していくのに有用な情報となることが期待され,理学療法学研究として意義のあるものと考えられた.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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