理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
変形性股関節症患者に対する高速度筋力トレーニングの効果
─無作為化比較対照試験─
福元 喜啓建内 宏重塚越 累秋山 治彦宗 和隆黒田 隆市橋 則明
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p. Ce0112

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抄録
【はじめに、目的】 変形性股関節症(以下、股OA)は、股関節の摩耗や変性により疼痛、筋力低下、運動能力低下やQOL低下をきたす慢性進行性の関節疾患である。股OAに対する運動療法の効果を無作為化比較対照試験(以下、RCT)により検討した報告は散見されるものの、最も効果的な運動療法は明らかとなっていない(Fransen 2009)。一方、高齢者の運動能力に関連する要因としては下肢筋力よりも筋パワーの方が重要であるとされている(Cuoco 2004、 Sayers 2005)。近年、高齢者に対する筋パワー向上を目的とした高速度筋力トレーニング(High-velocity training、以下HI)についての研究が行われており、たとえ同じ負荷であっても、低速度筋力トレーニング(Low-velocity training、以下LO)と比べHIの方が筋パワーや運動能力の向上が大きいとの報告がなされている(Fielding 2002、2008、Miszko 2003)。しかしながら、股OA患者に対してHIを実施しその効果を調べた報告は見当たらない。HIを行うことで、より効率的に股OA患者の筋パワーや運動能力を改善できる可能性がある。本研究の目的は、股OA患者に対するHIとLOの効果の違いをRCTにより検証することである。【方法】 対象は地域在住で自立した生活を送っている股OA女性患者45名(平均年齢53.4±9.8歳)とした。年齢および病期分類による層化ランダムブロック割り付けにより、対象者をHI群22名とLO群23名に群分けした。両群とも自宅にて8週間毎日、セラバンドを使用した両側の股関節外転、伸展、屈曲および膝関節伸展の4種類の筋力トレーニングを実施した。HI群の筋力トレーニングの速度として、求心相ではなるべく素早く行い、遠心相では3秒間かけて行った。LO群では、求心相、遠心相ともに3秒間かけて実施した。介入前後に、下肢筋力、筋パワーと運動能力の測定を行った。下肢筋力として、患側股関節外転、伸展、屈曲および膝関節伸展の最大等尺性筋力(Nm/kg)を測定した。また、角速度30°、90°、180°/秒での最大等速性膝関節伸展筋力(Nm/kg)と筋パワー(W)を測定した。運動能力の測定項目は、5回立ち坐りテスト(秒)、Timed Up and Go テスト(秒、以下TUG)、10m最大歩行速度(m/秒)、階段昇段テスト(秒)および3分間歩行距離(m)とした。統計学的検定として、各測定値の介入前の群間比較には対応のないt検定を用い、介入前後の群内比較には対応のあるt検定を用いた。また、群と期間を要因とし、介入前の値を共変量とした二元配置共分散分析を行った。統計の有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、本学倫理委員会の承認を得て行われた。対象者には研究内容について説明し、書面にて同意を得た。【結果】 研究途中でHI群では4名、LO群では3名が離脱し、最終的にHI群18名(54.4±9.7歳、身長156.6±5.7cm、体重54.3±7.6kg)、LO群20名(52.5±9.9歳、身長156.0±5.5cm、体重52.7±7.6kg)となった。介入前の年齢、身長、体重および各測定値に群間の有意差はなかった。介入により、HI群、LO群ともに筋力、筋パワーおよび運動能力のすべての測定値が有意に改善した(p<0.05)。等尺性筋力はHI群では介入により11~21%、LO群では13~23%の向上を示し、等速性膝伸展筋力はHI群で12~20%、LO群で8~15%の向上、膝伸展筋パワーはHI群で11~18%、LO群で7~14%の向上を示した。二元配置共分散分析の結果、TUGにおいてのみ有意な交互作用が認められ(p<0.05)、LO群と比較しHI群での改善が大きかった。【考察】 本研究では在宅での筋力トレーニングにより、HI群、LO群ともに筋力、筋パワーと運動能力の向上が得られた。筋パワーの向上はLO群よりもHI群が大きい傾向を示したものの、分散分析の結果、その向上に群間の違いは得られなかった。このことより、股OA患者の筋パワー向上には、筋力トレーニング時の実施速度の違いは影響しないことが示唆された。一方、TUGにおいてLO群と比べHI群での改善が大きかったことから、股OA患者ではHIを行うことによってより運動能力の改善が得られやすい可能性が示唆された。HIはLOと比べ短時間で実施可能であることから(Henwood 2008)、より効率的に股OA患者の筋力、筋パワーや運動能力を改善することが可能と考えられる。【理学療法学研究としての意義】 股OAに対するHIの効果をRCTにより検証した本研究の結果は、股OAの効果的な運動療法を開発するためのエビデンスに寄与すると考えられる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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