理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

専門領域 口述
短時間のスタティックストレッチングが柔軟性および筋出力に及ぼす影響
谷澤 真伊藤 俊一飛永 敬志
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Ce0116

詳細
抄録
【はじめに、目的】 ストレッチングは理学療法士にとって実施頻度の高い運動療法手技である.実際の臨床において,実施されている スタティックストレッチング(SS)の多くは10秒以下の伸張時間であり,スポーツ現場でよく用いられるストレッチングの伸張時間も5~10秒との報告が多い.しかしながら先行研究ではSSにおいて30秒以上の長い伸張時間に関する報告はあるが,10秒以下の短い伸張時間に関する報告は見当たらない.本研究では伸張時間に着目し,短時間のSSが柔軟性および筋出力に及ぼす影響について検討した.【方法】 対象は下肢の重篤な疾患をもたない健常成人20名(男性6名,女性14名,平均年齢22.7±3.6歳,身長164±7.9cm,体重57±7.6kg)とした.対象肢は利き足の大腿四頭筋およびハムストリングスとした. SSの方法はIDストレッチングに準じた.SSの強度は痛みを感じない最大伸張位を至適強度とし,伸張時間は至適強度に達した時点からカウントした.伸張時間は6秒間保持×3回(6秒群)と,30秒間保持×3回(30秒群)の2条件とした.試行は1日1条件とし,2日間に分けて実施した.柔軟性の評価としてSLR角度を測定し,筋出力の測定には, BIODEX SYSTEM3を使用した.筋出力の測定は,等尺性膝屈曲・伸展運動(膝関節60°屈曲位),等速性膝屈曲・伸展運動(60°,300°/sec)を実施した.測定順序は等尺性膝屈伸から行い,5秒間の膝関節屈曲伸展を各3回繰り返して,各ピークトルク体重比を記録した.続いて等速性膝屈伸を行い,各々の角速度で連続5回計測し,各ピークトルク体重比を記録した.統計処理は,SS実施前後のSLRおよび筋出力の変化に対してKolmogorov-Smirnovの検定により正規性の検討を行い,正規性の有無により対応のあるt検定もしくはWilcoxonの符号付順位検定を有意水準を5%未満として行った.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究および発表において,ヘルシンキ宣言に則り対象者に本研究の目的,結果の取り扱いおよび研究参加により起こりうるリスクについて文書ならびに口頭で十分な説明を行った後,研究参加の意志確認を行なった上で同意書へ署名を得た.【結果】 SLR角度をSS実施前後で比較すると,6秒群では実施前は70.0±15.4°,実施後は73.8±18.4°であり有意な変化を示さなかった.一方,30秒群では実施前は70.1±15.5°,実施後は74.8±16.2°でありSS後に関節可動域の有意な増加が認められた(p<0.01).ピークトルク体重比は6秒群では角速度60°/sec等速性膝屈曲時において実施前は2.20±0.38Nm/kg,実施後は2.36±0.47 Nm/kgでありSS後に有意な増加を認めた(p<0.05).30秒群では等尺性膝屈曲時において実施前は1.28±0.26 Nm/kg,実施後は1.22±0.20 Nm/kgでありSS後に有意な低下(p<0.05),角速度60°/sec等速性膝屈曲時において実施前は1.18±0.29 Nm/kg,実施後は1.12±0.23 Nm/kgでありSS後に有意な低下(p<0.01),300°/sec等速性膝屈曲時において実施前は0.88±0.20 Nm/kg,実施後は0.82±0.20 Nm/kgでありSS後に有意な低下を認めた(p<0.05).等尺性および等速性膝伸展時では両群ともに有意な変化を示さなかった.【考察】 ストレッチングを実施することで,伸張を加えている筋や筋膜といった軟部組織の伸張性が増大して関節可動域が拡大する.しかし,筋組織の柔軟性向上のためのSSは6秒間では不十分であり,より長い伸張時間が必要であることが示唆される.また,6秒間のSS後の筋出力において有意な増加が示されたことから,筋紡錘の興奮性を高め,伸張反射が促通されていることが考えられる.一方,30秒間のSSでは中枢神経系の筋緊張抑制メカニズムに基づく筋緊張低下によるリラクセーション効果により筋出力の有意な低下を示したことが考えられる.【理学療法学研究としての意義】 臨床で頻繁に実施されている短時間のSSの効果における1つの知見として研究意義があったと考えられる.また,本研究の結果から,SSは伸張時間の長さにより効果が異なる可能性が示唆された.したがって,目的・用途に合わせてSSの伸張時間を検討していくことは,今後の理学療法の発展の上で重要である.
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top