理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
超音波診断装置による筋膜リリースと温熱療法の治療効果の比較
市川 和奈竹井 仁見供 翔小川 大輔宇佐 英幸松村 将司
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p. Ce0115

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抄録
【目的】 臨床において、筋・筋膜の機能異常を対象とした理学療法技術は数多く存在する。筋・筋膜の機能異常への介入方法の一つとして、徒手療法に属する筋膜リリース(Myofacial Release:以下MFR)がある。これは異常な筋膜の高密度化と基質のゲル化を解消する目的で実施する技術である。MFRは、関節運動を伴わず刺激も穏やかな治療手技であるため様々な疾患・年齢層に対応することができ、その臨床意義は大きいと考える。しかし、その治療効果を比較し検討した研究は少ない。そこで本研究では人体への侵襲が少ない超音波診断装置を使用し、MFRと温熱療法の治療効果を比較検討することを目的とした。【方法】 対象者は整形外科的既往のない健常成人男性9名で、平均年齢 27.0(22-34)歳、身長と体重の平均値(標準偏差)は身長171.8(4.0)cm、体重64.9(5.9)kgであった。対象者の右外側広筋に対し、1.MFR4分、2.ホットパック20分、3.ホットパック10分、4.常温パック(ホットパックに使用したものを室温と同じ温度の水につけ使用)20分、5.常温パック10分、の5種類の介入を同一被験者に対して順序は無作為に約1週間おきに実施した。測定箇所は右側臥位にて、大転子と大腿骨外側上顆を結んだ直線上の中点かつ腸脛靭帯の腹側で測定した。測定項目は1)筋膜移動距離(浅層と深層)、2)超音波診断装置のReal- time elastography機能を使用した筋硬度測定(浅層と深層)、3)筋硬度計を使用した筋硬度、の3項目とした。1)は、超音波診断装置(日立メディコ社、EUB-7500)にて観察できる筋膜と筋束の接点(以下、指標点)を指標とし、膝関節0°から45°に関節角度を変化させたときの浅層筋膜と深層筋膜の各指標点を計測し、介入前後での指標点の距離の差を測定値として算出した。2)は超音波診断装置のReal- time elastography機能を使用し、筋肉冷却用ゲル(6cm×5cm×8mm)を貼った専用のスタビライザーをプローブに装着して測定した。筋肉冷却用ゲルを基準物質として、介入前後で外側広筋との歪み比(外側広筋の歪み平均値/基準物質の歪み平均値)を、浅層筋膜と深層筋膜付近の2か所に対して測定し、介入前後での歪み比の差を測定値として算出した。3)は筋硬度計(アスカーゴム硬度計FP型:ASKER 高分子計器株式会社)を使用し測定した。測定は連続して5回行い、最大値と最小値を省いた3回の平均値を測定値とした。統計的解析は1)2)については各層での介入前後の変化量を従属変数、介入方法を独立変数とした反復測定による一元配置分散分析と事後検定としてTukey HSD法を実施した。3)については筋硬度の変化量を従属変数とし、介入方法を独立変数とした反復測定による一元配置分散分析と事後検定としてTukey HSD法を実施した。分析にはSPSSver12.0Jを使用し、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は筆頭演者の所属する大学院の研究安全倫理審査委員会の承認(承認番号:09048)を得たうえで、被験者に対して事前に研究趣旨について十分に説明した後、書面での同意を得て実施した。【結果】 1)では、浅層と深層ともにMFRが他の4つの介入方法に対し有意に大きい値を示し、指標点の遠位方向への移動量が有意に増加した。2)では浅層、深層ともにMFRが他の4つの介入方法に対し有意に大きい値を示し、筋硬度は有意に減少した。また、3)ではMFRが他の4つの介入方法に対し有意に小さい値を示し、筋硬度は有意に減少した。【考察】 本研究において、MFRのみが筋膜移動距離、筋硬度に効果を認めた。指標点の移動距離は浅層では皮下組織と外側広筋、深層では外側広筋と中間広筋の間での滑走性を示しており、筋硬度は筋の柔軟性を示している。軟部組織の伸張性や柔軟性には組織内に存在する結合組織が影響しており、特に主要構成成分である膠原線維の変化が関与している。また膠原線維は温熱や持続的な伸張により伸張性が増加するとされている。MFRは筋膜を単に伸張するのではなく、深筋膜への圧と持続的な伸張により高密度化した膜組織の制限を解除し、ゲル化した基質をゾル化する手技である。結果として、筋膜制限を解除し、深筋膜と筋外膜との滑りを改善し、深筋膜・筋外膜・筋周膜の弾性を正常化することで、筋・筋膜の滑りと伸張性を改善することになる。本研究ではMFRのみで効果を認めたことから、ホットパックのように温熱のみでは組織の滑走性や柔軟性を変化させることができず、軟部組織の滑走性および柔軟性の改善には持続的な伸張が必要であることが示唆された。また、MFRでは短時間の介入で効果がある点でも非常に有用な治療手技であると考えた。【理学療法学研究としての意義】 本研究により得られた結果から、MFRによる筋・筋膜への影響が明確となり、臨床において効率的かつ有用な治療手技選択の際の一助になると考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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