理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

専門領域 口述
Star Excursion Balance Testの側方リーチ距離と側方ホップ時の膝関節外転モーメントの関係
谷口 翔平山中 正紀石田 知也武田 直樹
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Ce0119

詳細
抄録
【はじめに、目的】 非接触型膝前十字靱帯(ACL)損傷の受傷機転は着地動作やカッティング動作が多いとされ(Bodenら, 2000),着地動作時の膝外転角度および外転モーメントの増加がACL損傷リスクとなると考えられている(Hewettら,2004).ACL損傷予防の重要性は国際的に認識されており,これまで様々な予防プログラムが報告されている.それらの予防プログラムの中ではバランストレーニングを導入しているものが多く報告され,その有効性が示されている.また,ACL損傷者は損傷側だけではなく非損傷側での支持においても動的バランス能力が低下していたことが報告されており(Herrington,2008), ACL損傷者は損傷以前より動的バランス能力が低下していたことが示唆されている.この様にACL損傷予防におけるバランストレーニングの有用性やACL損傷と動的バランス能力の関係性は報告されているが,バランス能力が実際にACL受傷機転として報告されている着地動作時の膝関節外転角度や外転モーメントとの関係性は未だ不明である.本研究の目的は,動的バランス能力と着地動作時の膝関節外転角度および外転モーメントとの関係について検討することとした.【方法】 健常女性12名を対象とした(年齢21.8±1.0歳,身長160.2±7.4cm,体重52.0±7.5kg).除外基準は膝ACL損傷の既往を有する者,過去6ヶ月間に下肢・体幹の整形外科的な既往を有するものとした.動的バランス能力の評価にはStar Excursion Balance Test(SEBT)を用いた(Kinzeyら1998).SEBTでは被験者に利き足での片脚立位を保持させ,予め定められた方向へ引かれた床面上のラインへ非利き足の足尖で最大リーチを行わせた.最大リーチ後、ライン上へリーチ側足尖をタッチさせ、開始肢位まで戻ることを条件とし、タッチ後にバランスを崩した試行は無効とした。利き足の定義はボールを蹴る足とし,本研究対象は全例で右であった.リーチの方向は過去にACL損傷との関係が示唆された側方へのリーチを採用した(Herringtonら2008).右下肢で立脚した場合,進行方向に対して右90°へのリーチを外側リーチ,左90°へのリーチを内側リーチとし,リーチ距離は各被験者の下肢長で標準化した.各方向3試行における最大値を解析に用いた.着地動作の計測には赤外線カメラ6台(Motion Analysis社製)と三次元動作解析装置EvaRT 4.3.57(Motion Analysis社製,200Hz),床反力計2枚(Kistler社製,1000Hz)を用い,反射マーカーは被験者の利き足である右下肢の大腿,下腿などに合計39個貼付した.動作課題は側方へ約35cm両脚でホップし,両脚で着地した後ただちに最大垂直跳びを行う課題を用いた.着地動作の解析にはホップ後の最初の着地を採用し,SIMM4.2.1(MusculoGraphics社製)を用いて各試行の膝関節外転角度および外転モーメントの最大値を算出した.膝外転モーメントは各被験者の体重で除し,標準化した.成功3試行の平均値を代表値として解析に用いた. 統計学的検定はPearsonの相関係数を用い,各リーチ距離と膝関節外転角度および外転モーメントの間の関係性を検討した.有意水準はp<0.05とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当大学院倫理委員会の承認を得て行った.対象には事前に口頭と書面で本研究の目的,実験手順,考えられる危険性などを説明し,その内容について十分に理解を得て,参加に同意した者は同意書に署名をし,研究に参加した.【結果】 膝関節外転モーメントと外側リーチ距離の間に有意な負の相関を認めた(r=-0.73,p<0.05).すなわち,外側リーチ距離が短い者ほど膝関節外転モーメントが大きい結果であった.その他に有意な相関は認めなかった.【考察】 外側リーチ距離が短い者ほど着地動作時の膝関節外転モーメントの最大値が大きくなることが明らかとなった.この結果から,側方へのバランス能力が本研究で用いた動作課題の様な側方への着地動作時の膝関節外転モーメントへ影響する事が示された.ACL損傷リスクとして着地動作時の膝関節外転モーメントの増加が指摘されており,側方へのバランス能力の低下がACL損傷に寄与することが示唆された.また,ACL損傷とSEBT側方リーチ距離が関係することが過去に示唆されており(Herrington,2008),本研究はこの報告を支持する結果であると考えられる.今後は,SEBT側方リーチがどのように着地動作時の膝関節外転モーメントへ寄与するかを詳細に検討していくことで,ACL損傷予防法をさらに発展させることが出来ると考える.【理学療法学研究としての意義】 本研究結果より、動的バランス能力が着地動作における膝関節モーメントに影響することが示された.これは,ACL損傷予防プログラムにおけるバランストレーニングの有用性を支持する結果であり,ACL損傷(再受傷も含め)を予防する際にはバランストレーニングを取り入れることが重要であると考えられる.
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top