理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
片脚スクワット動作時の骨盤運動と膝関節伸展モーメントの関係
─ACL再建術後の身体運動機能の評価として─
森口 晃一藤戸 郁久河上 淳一中西 純菜原口 和史松浦 恒明日野 敏明
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p. Ce0120

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抄録
【はじめに、目的】 当院では,前十字靭帯(以下ACL)再建術後患者に対して,身体機能や再受傷のリスク要因の把握などを目的に数種の動作評価を実施している。動作中の骨盤の動きは,膝関節への力学的ストレスに影響を与える要因と考え,各動作評価では骨盤の動きに着目して独自に陽性・陰性の判定を行っている。しかし,あくまで臨床的な印象での評価であり,陽性・陰性の判定の基準である骨盤の動きが膝関節においてどのような影響を及ぼすのか,その臨床的意義は不明確であるのが課題であった。我々は過去にACL再建術を施行し術後3ヵ月を経過した患者を対象にした調査を行い,当院で行っている数種の動作評価のうちの1つである片脚スクワット動作は,術後6ヵ月時点でも他の動作よりも陰性率が低く,最も難易度が高いことが分かった。そこで今回,片脚スクワット動作における骨盤の動きと膝関節伸展モーメントを計測し,これらの関係から当院で実施している動作評価の妥当性について検討した。【方法】 対象は,下肢関節に外傷の既往のない健常女性16名(平均年齢21.25歳)とした。体表面に18個の反射マーカーを装着し,片脚スクワット動作を3次元動作解析装置と床反力計を用いて計測し,膝関節伸展モーメントと前額面における骨盤傾斜角度と骨盤回旋角度を求めた。動作中の前額面での骨盤傾斜角度の最大値と最小値の差を算出し骨盤傾斜最大変位角度とした。骨盤回旋角度についても同様の方法で算出し骨盤最大回旋角度とした。計測側の膝関節20°~60°屈曲の範囲において,1.膝関節伸展モーメントと前額面の骨盤傾斜最大変位角度,2.膝関節伸展モーメントと骨盤最大回旋角度,3.前額面の骨盤傾斜最大変位角度と骨盤最大回旋角度のそれぞれの相関関係を調べた。統計処理は,Spearman順位相関を用いた。なお被験者は全員右利きであり,一般的に右利きの場合は軸足とされている左下肢を計測した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて実施した。全被験者に研究の主旨と内容を十分に説明し,文書による同意を得た。また,済生会八幡総合病院の倫理委員会による承認を得た。【結果】 1.膝関節伸展モーメントと前額面の骨盤傾斜最大変位角度において正の相関関係を認めた。(r=0.66,p<0.01)。2.膝関節伸展モーメントと骨盤最大回旋角度においては明らかな相関関係を認めなかった。3.前額面の骨盤傾斜最大変位角度と骨盤最大回旋角度においては正の相関関係を認めた(r=0.58, p<0.05)。【考察】 本研究の結果から,片脚スクワット動作中の前額面における骨盤傾斜の変化が大きいほど膝関節伸展モーメントが大きくなることが示された。このことは,これまでの我々が実施してきた臨床評価の結果の解釈を後押しするものとなった。膝関節伸展モーメントの増大は,ACLへの負担が大きくなる可能性がある。よって今回の結果から,当院で実施しているACL再建術後患者に対する動作評価は妥当性が高いと思われ,骨盤の動きに着目した片脚スクワット動作は,術後の身体機能の回復の指標の1つとして有用であると思われる。また,前額面での骨盤傾斜角度が大きくなるほど,骨盤の回旋で代償する傾向が示され,膝関節への力学的ストレスに影響を及ぼすことが推測される。今回の研究では,結果の因果関係を述べるまでには至っていないため,今後の課題とする。【理学療法学研究としての意義】 臨床場面では,動作評価を徒手的・視覚的に判断を行う場面が多い。当院で実施しているACL再建術後患者に対する動作評価も徒手的・視覚的に判定しているが,本研究結果は、我々が臨床で実施している動作評価の判定の妥当性を後押しするものであり,臨床評価の妥当性が得られた点において,本研究の意義は大きいと思われる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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