理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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新人理学療法士セッション ポスター
過去の痛み経験により強化された高齢女性の膝の痛み
吉本 智美大前 賢史市川 德和宮本 謙三
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p. Cf1499

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抄録
【はじめに】 イエローフラッグは回復を妨げる心理社会的危険因子であり長期障害のリスクが増大する。今回、過去の痛み経験が、過度な疼痛回避行動につながった変形性膝関節症(膝OA)症例を経験した。そこで、理学療法(PT)評価と症例の心理社会的因子の両面から問題点を推論しPTを施行したので報告する。【症例紹介】 糖尿病により数年来当院を受診している77歳女性。09年に左膝OAの診断にて2カ月間のPTを経験したが経過良好にて終了。11年3月頃より、左膝痛再発し抗炎症薬やヒアルロン酸注射による治療を行った。同年8月、草引きを契機に痛みが増悪しステロイド、局所麻酔注射を行うも痛みは持続。同月、左膝OAの診断にてPT開始。主訴は立ち上がり、歩行初期の左膝前面の痛みであった。また臥位では膝伸展困難で、就寝時は痛みによる不安と恐怖から常時膝下に枕を使用したが睡眠障害があった。起床後は腓骨頭周辺の痛みにより踵がつけず尖足にて歩行した。家庭内独居で、日中は趣味の洋裁や家事を行い過ごした。入院中の娘を見舞うため、毎日自転車で通院するがその際は無痛である。信心深い性格である。08年に受傷した右膝蓋骨骨折の耐えがたい痛みを今でも記憶している。現在右膝痛は無い。【説明と同意】 本研究に際し本人への十分な説明を行い、書面で発表の同意を得た。【経過】 <初回アプローチ>体型はBMIで標準であるが、胸椎後弯と腰椎前弯が増大し骨盤が前傾した立位姿勢でやや肥満体型に見える。独歩にて来室したがNRS6~7の痛みを訴えた。他動可動域は、左膝屈曲135°、伸展-30°の制限を認めた。右膝に制限はなく、両股関節伸展制限を認めた。視診、触診にて腸脛靭帯、外側広筋、外側ハムストリングス、膝窩部の緊張と硬さを容易に認めた。大腿周径10cmレベルで左-1.5cmの差を認めた。腫張、熱感はなく、病歴や医師の治療効果から非炎症性疼痛が示唆された。よって、痛みと伸展制限を、恐怖を回避するための行動と仮説立てた。そこで、腹臥位、自動介助にて大殿筋促通とハムストリングス抑制を目的に股関節伸展等尺性運動を施行。結果、左膝伸展-5°となり、立ち上がり、歩行時痛は消退した。膝伸展は器質的制限ではなく機能的制限であることが推察された。 <二次アプローチ>初回から二日後、左膝伸展は-5°を維持し、起床後の歩行は踵接地が可能であった。しかし、左膝屈曲時に膝前面、伸展時に腓骨頭周囲に間欠的で深部性の痛みを訴え、再発への不安があった。触診にて膝周辺組織の圧痛と硬さ、膝蓋骨の内側と下方への可動性低下を認めた。膝屈伸とも終末感覚は軟部組織の伸張感であった。両大腿直筋、大腿筋膜張筋、ハムストリングスに短縮を認めた。下肢筋力はMMT4~5であった。運動パターンは股関節より膝関節の活動比率が高い傾向で、股関節では自動他動運動にラグを認めた。評価から、膝蓋骨の位置障害に由来する膝蓋大腿関節痛と推論し、股関節屈曲、伸展、外転、屈曲・外転・内旋最終域での等尺性運動と外側広筋の後方スライド、膝蓋骨下方滑り、内側滑りを施行した。結果、膝伸展制限の改善と痛みの消退を認めたが、再発への不安とPTへの依存、受動的アプローチへの期待が強くみられた。 <継続管理>過去の経験が不安や再発への恐怖感を持続させたため、学習された痛みを症例自身が自己管理できるようホームエクササイズを指導し、外来PTにて実施状況を確認した。症例はホームエクササイズを行うことで痛みを自己管理することができたが、症例の心理面や通院が日常的であることを考慮し週2回の継続管理を行った。【考察】 持続する痛みは、中枢神経系で学習、強化され慢性化する。初回の治療と結果からイエローフラッグの存在が示唆され、組織損傷の存在よりも中枢神経系の可塑的変化が引き起こした痛みであることが推察された。症例にとって痛みは、既往歴から有害なものと認識されている。通常、痛みや負傷を恐れる気持ちが疼痛回避行動を生じさせる。左膝痛はPT開始となる約半年前から存在しており、それを回避するための行動が結果として痛みや膝伸展制限を来したと考えられた。しかし、たとえ症状が中枢神経系に由来しているとしても、身体を通して表出されるため、主訴に対する原因を推論し運動療法を施行することは重要であり、さらに自己管理へとつなげていく必要性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 膝OAは退行性疾患であり、不定愁訴としての痛みは多く存在する。患者の主訴に対し器質的疾患とイエローフラッグの両面を考慮しアプローチすることが重要である。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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