抄録
【はじめに、目的】 慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)はタバコ煙などの有害物質の吸入により気道や肺胞に炎症を生じ、換気障害とガス交換障害のため、慢性的に運動機能をはじめ全身の生理機能が低下する。また、全身の炎症病変は血管内皮障害を介して高次脳機能の注意・認知機能へも影響すると考えられる。我々はCOPD患者では運動時低酸素血症、息切れ度、そして日常生活活動(以下、ADL)性の低下が認知機能低下に関与していることを報告した。さらに、同患者の認知機能に及ぼす運動療法介入の効果についても報告した。そこで本研究ではCOPD患者の認知機能に及ぼす運動継続の効果について検討した。【方法】 対象は症状安定期にあるCOPD患者に運動療法を実施し、その後にフォローできた10名(男性9名、女性1名)、平均年齢71.3±7.0歳とした。肺機能はVC 3.3±0.8L、%VC 110.0±19.5%、FEV1.0 1.4±0.5L、%FEV1.0 68.4±24.8%であった。プロトコールは観察期間に続き、2ヵ月の監視下で全身柔軟運動・歩行運動を中心に40~50%のレベルで、30から40分間、週3回、8週間実施した。その後、非監視下での同運動を自宅で20から30分間、週2回継続(平均10.7±4.5ヶ月)した。評価は運動療法前(以下、ベースライン)と運動療法直後(以下、直後)、さらにその後の継続時(以下、継続時)に実施した。測定項目は肺機能テスト、MRC呼吸困難度、ADLテスト、運動習慣について実施し、認知機能をMini-Mental State Examination(以下、MMSE)を用いて11項目30点満点で評価した。分析はベースラインと直後、そして継続時の各指標を比較した。さらに週2回、20分以上の運動を継続していた継続群7例と非継続群3例を後方視的に分けて比較した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はO大学医学部倫理委員会の承認を得て臨床研究として実施した。対象者には事前に口頭と文面にて研究内容と方法を説明し同意書を得た。【結果】 1、MMSEの変化MMSEはベースライン25.9±2.1点、直後27.9±1.8.点、継続時27.1±2.1点であり、直後と継続時の得点は変わらなかった。さらに継続群と非継続群内で比較したところ、改善の効果(P<0.05)が保たれていた。非継続群は変わらなかった。群間比較では3時期すべて有意(P<0.05)な差を認めた。2、MMSEの内訳の変化MMSE11項目の内訳について、ベースラインでは注意・計算機能と短期記憶(遅延再生)の低下が他の項目より特徴的であった。さらに、直後においても両項目に有意な改善(P<0.01)が認められた。そして、直後より継続時の比較においては注意・計算機能(5点満点)は4.2±1.4点より3.5±1.5点に有意(P<0.05)な低下があった。しかし、その他の10項目において差は認められなかった。さらに、継続群と非継続群内で比較したところ、継続時低下する傾向(P<0.1)があった。非継続群は変わらなかった。群間比較では3時期すべて有意(P<0.05)な差を認めた。3、他の測定項目の変化肺機能テスト、酸素飽和度、MRC呼吸困難度は変わらなかった。ADLテストではベースラインより直後に身辺動作では変化がなかったが、移動動作は9.4±2.6点より11.0±2.6点に有意(P<0.05)な改善が認められた。そして、直後より継続時では身辺動作および移動動作ともに改善の効果が保たれていた。さらに、移動動作において継続群と非継続群内で比較したところ、両群ともに改善の効果(P<0.05)が保たれていた。群間比較では3時期すべて有意(P<0.05)な差を認めた。【考察】 有酸素運動を中心とした運動療法が注意機能、課題スピード、記憶などの認知機能を改善する報告がPatrick等により報告されている。また、COPD患者を対象とした認知機能に対する運動療法の効果を報告したCharles、Jennifer、等のものが散見される。また、我々はCOPD患者の認知機能はADL時の息切れの改善と、活動性が向上すると共に改善が認められ、特に注意・計算機能と短期記憶が改善することを既に報告している。今回の継続時(10ヵ月後)の結果からは、運動療法でベースラインより直後に改善した認知機能は、運動を継続することで高い得点に保たれていた。さらに、ADLの移動動作がより高いレベルに維持されることに関係しており、週2回の運動でADLレベルが保たれ効果があることが示唆された。しかし、MMSEの細項目よりは注意・計算機能はベースラインより直後に改善するが、継続時高いレベルでやや低下した。このことは注意・計算機能はより可逆的であることを示しており、特別なトレーニングの必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 COPDの運動で改善した認知機能は、非監視下での運動を週2回、20分以上実施することで維持できることが示唆された。