抄録
【はじめに、目的】 しばしば透析導入前後に膝関節痛を発症する症例やintact PTHが高値である時期に一致して膝関節の変形が著しく進む症例を経験する.慢性腎不全では二次性副甲状腺機能亢進症(2HPT)による骨密度の低下をきたしやすいが,骨密度の低下は変形性膝関節症(膝OA)の主要なリスクファクターの一つである.しかし透析患者を対象に膝OAと副甲状腺ホルモン(PTH)との関連を検討した研究はほとんど見られない.そのため透析導入時におけるintact PTH値がその後の膝関節痛に及ぼす影響について検討したので報告をする.【方法】 対象は歩行の自立した当院外来透析患者68名(年齢68±11歳,透析歴2.3±1.4年),内男性50名(67.5±11.6歳),女性18名(69.5±12.0歳)とし,長期透析による関節破壊の影響を最小限にするため透析歴は5年未満の者を対象とした.副甲状腺機能の評価にはintact PTHを測定し,透析導入後から3ヶ月間での最大値を解析パラメーターとした.日本透析医学会の示すintact PTH管理目標(60~180pg/ml)に従い,180 pg/ml未満を低PTH群(23例,126±40pg/ml),180 pg/mlを超える群を高PTH群(45例,346±133pg/ml)とした.膝関節痛に関しては,透析導入時から現在までの荷重時痛の有無を調査した.なお,疼痛を有する対象者の内,膝関節に外傷の既往を持つ者,又は慢性関節リウマチの罹患者は除外した.統計解析は,Fisher’s exact testを用い,有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の目的と個人情報の取扱いについてよく説明をした上で同意を得た.【結果】 全対象者の20.6%に膝関節痛を認め,男女別では男性16.0%,女性33.3%に膝関節痛を認めた.2群間の検討では高PTH群では低PTH群に比して有意に膝関節痛の発生頻度が多く認められた(p<0.05、オッズ比:0.112).【考察】 腎不全患者では,ビタミンDの活性化障害に伴う腸管からのカルシウム(Ca)吸収障害,腎からのリン(P)排泄障害により,低Ca血症,高P血症をきたす.そのことで副甲状腺のPTH分泌が亢進し,2HPTという病態となる.intact PTHは副甲状腺機能の評価や骨代謝の評価に対し有効であり,骨密度との強い相関がある.透析患者において血清PTH濃度は骨塩量に負の相関を有する事が報告されている.今回低PTH群に比して高PTH群で膝関節痛の発生頻度が高かった事はintact PTHが膝OAの重要なリスクファクターの一つである骨密度を反映しているためと考えられる.よって透析患者におけるintact PTHの測定は,膝OAのリスク評価という観点からも有用な評価項目である可能性を示唆しているものと考えられる. 今回行った検討において膝OAの評価に関しては疼痛状況のみの主観的な評価しかしていない.今後はより客観的な膝OAの評価項目とPTHとの関連性やintact PTHの長期コントロール状態との関連性についても明らかにしていきたいと考えている.【理学療法学研究としての意義】 現在透析患者に対する透析中運動療法が国内においても徐々に普及しつつあり,その効果についての報告も増えてきている.しかしそれは有酸素運動を主体とする運動療法の効果について検討されているものがほとんどであり,レジスタンストレーニングの必要性については今後検討が望まれる分野である.透析患者においてintact PTHのコントロール状態と膝OAの関連が今後より明らかになり,膝OAが透析の主要な合併症の一つであるという認識が強まれば,関節変性疾患を予防するという観点からレジスタンストレーニングの必要性を示唆するものになるかもしれない.