抄録
【はじめに、目的】 当院では平成17年にNSTが発足し、当初からPT,STが積極的に参加している。リハビリテーション(以下リハビリ)部門では患者介入時に、AlbやCRP等の検査データや食事摂取状況の確認を行っている。NST回診からの簡単な情報伝達は行っているものの、特別な運動負荷の基準はなく統制されていないのが実情である。また当院では平成23年度より入院時評価としてSGAによる栄養アセスメントを採用している。日々の業務や勉強会を通して、看護師や栄養科には浸透しているものの、リハビリ部門にはまだ浸透していないのが現状である。もうひとつの評価方法としてMNAがある。MNAは65歳以上の方であれば簡易的に評価でき、SGAよりも軽度栄養障害も見逃すことは少ない。今後、リハビリスタッフが栄養評価に興味を持ち、SGAやMNAをどのように解釈し活用していくべきかを考えるとともに、栄養評価の必要性を検証し、リハビリ介入による不利益(サルコペニアなど)を減少させることを目的に今回、臨床的な実態調査を施行した。【方法】 リハビリ依頼が出ている内科病棟で65歳以上の患者36名(8月13日時点)を対象とした。栄養評価としてSGAとMNAを用い、リハビリプログラム(臥床リハビリ、端坐位保持、歩行訓練)の項目を検討した。またNST回診との関わりについても調査した。【倫理的配慮、説明と同意】 栄養評価(SGA、MNA)、リハビリプログラムで対象となる患者様に対しては、口頭にてご本人もしくは家族に同意を頂いた上で、当院倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 SGA評価は良好群14%、中等度群64%、高度群22%であった。リハビリ対象患者における栄養障害や疑いがある患者は86%であった。リハビリプログラムと比較すると良好群では100%歩行訓練を実施していた。中等度群では歩行訓練群34%、車椅子群39%、臥床群26%で車椅子や臥床リハビリが65%を占めていた。高度群では歩行訓練群25%、車椅子群37.5%、臥床群37.5%で車椅子や臥床リハビリが75%を占めていた。MNA評価は良好群0%、中等度群47%、高度群53%であった。リハビリ対象患者における栄養障害疑いや栄養障害がある患者100%であった。リハビリプログラムとの比較では中等度群では歩行訓練群65%、車椅子群29%、臥床群6%で車椅子や臥床リハビリよりも歩行訓練が多い。高度群では歩行訓練群21%、車椅子群37%、臥床群42%で車椅子や臥床リハビリが79%を占めていた。NST介入は36名中17名で47%であった。SGAでは中等度群45%、高度群75%は介入していた。MNAでは中等度50%、高度群70%は介入していた。【考察】 今日、リハビリにおいては早期介入、早期離床がスタンダードとなっている。しかし、栄養状態を無視した運動療法が負に働いている可能性も否定できない。より質の高いリハビリを提供するためには、全身状態に加え、栄養状態も踏まえた初期評価が必要となっている。当院のリハビリ対象患者のSGAは栄養不良疑いの群が最も多く、またMNAでは栄養不良群が最も多く、いずれも高い割合を示した。MNAは抽出感度が高く、軽度栄養不良の人を拾えた。これはSGAとMNAの特性に当てはまる傾向であった。リハビリプログラムから見ると、歩行群且つ栄養不良群に対しては、積極的な訓練ではなく、大半は移乗動作獲得のためのプログラムが実施されていた。リハビリ対象患者のNST介入率は約半数であり中等度、高度群はほぼ網羅らされていたが、一部介入の無い患者もいた。こうような対象者に対しては、今後リハビリ部門からNSTに定期的に報告するシステムを構築する必要がある。MNAが中等度であってもNSTの対象となっていないケースも多くみられた。SGAでの評価を見て、栄養状態が中等度や良好群に対しても、必要に応じてMNAを併用して評価していくことが望ましいだろう。今回、リハビリスタッフが対象患者の実態を知ることで、栄養に対する危機意識が高まったと考えられる。また初期から栄養状態を把握することで、過度な運動負荷を避けることも可能と思われる。【理学療法学研究としての意義】 理学療法士の栄養に対する意識のさらなる向上、栄養の基礎知識の修得が挙げられる。また栄養状態が改善傾向なのか、悪化傾向なのか経時的にとらえていく必要がある。その時点でもっとも適切なリハビリプログラムを採用していきたい。「栄養ケアなくしてリハなし」と若林らが提唱しているように、リハビリを実施するものとして、最低限の知識と技術を身に着けることが急務である。