理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 口述
下肢リンパ浮腫に対する複合的理学療法の治療効果に影響を与える因子の検討
─浮腫変化率を従属変数とした重回帰分析を用いて─
中山 紀子青山 誠小林 範子泉田 悠子山崎 美希野地 法子松村 和幸佐藤 理恵林 雅子成田 優希藤野 敬史
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Da0335

詳細
抄録
【はじめに、目的】 リンパ浮腫は乳癌や子宮癌の術後に生じる合併症として認知されている。リンパ浮腫の代表的な保存的治療法として複合的理学療法があり、現在では有効な治療法として評価されている。治療効果として浮腫変化率が報告されているが、治療期間や回数、患者の身体特性などにより数値に相違が生じるため、一定の見解は示されていない。そこで、下肢リンパ浮腫の浮腫変化率に影響を与える因子について検討することとした。【方法】 対象者は片側性の下肢リンパ浮腫患者47名、平均年齢63.1±10.7歳(mean±SD)、未治療期間は78.4±105.7ヶ月、リンパ浮腫の進行期(国際リンパ学会)は2期43名、3期4名であった。集中治療はスキンケア、医療徒手リンパドレナージ、弾性包帯による圧迫療法、運動療法を外来通院で行った。集中治療の日数は22.7±8.6日、治療回数は12回(中央値、週2-4回)であった。解析に用いる因子として年齢(歳)、治療期間(日)、治療回数(回)、未治療期間(月)、運動療法の有無、バンテージ装着時間(時/日)、治療前後の膝関節可動域の差(°)、体重(kg)、治療前後の体重差、BMI値(kg/m2)、蜂窩識炎の頻度(回/年)を扱い、浮腫変化率(%)と相関の高い因子について浮腫変化率を従属変数とした重回帰分析を行った。浮腫変化率は患肢と健肢の体積近似値の差を浮腫体積(cm3)とし、{(治療前浮腫体積‐治療後浮腫体積)/治療前浮腫体積×100}として算出した。統計にはSPSSを用い、有意水準はα=0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全例にヘルシンキ条約に基づいたインフォームド・コンセントを実施し、書面上での同意を得ている。また、本研究は倫理委員会の承認を得ている。【結果】 浮腫変化率と有意に相関のあった項目は年齢(r=-0.35)、治療回数(r=-0.39)、バンテージ装着時間(r=0.44)、治療前体重(r=-0.31)、治療後体重(r=-0.36)、治療前後の体重差(r=0.42)、治療後BMI値(r=-0.32)の7項目であった。上記7項目を独立変数とした場合のステップワイズ法を用いた重回帰分析結果は、バンテージ装着時間治療回数治療前後の体重差年齢の4項目が採択され、残り3項目は棄却された。得られた重回帰式は浮腫変化率=120.54+0.87X1(バンテージ装着時間)-5.63X2(治療回数)+6.19X3(治療前後の体重差)-0.48(年齢)(R=0.63、R2=0.40、P<0.001)であった。【考察】 浮腫変化率とバンテージ装着時間との相関は以前の報告(2008年日本理学療法学術大会)と同等であり、バンテージ装着時間が長いほど浮腫変化率が高いことが示された。今回の結果より、年齢は若年ほど治療効果が出やすいことが示され、高齢者に対して集中治療を行う際には、バンテージ装着時間の延長とダイエットの推奨が望まれると思われた。治療回数に関しては、治療効果が遅延した場合に回数を追加したことが影響していると思われる。治療前後の体重と治療後BMI値は低いほど治療効果は向上することが示唆されたが、重回帰分析では治療前後の体重差のみ採択された。いずれにせよ集中治療中の体重減退が治療効果につながると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 リンパ浮腫に対する集中治療の適応を考える際には年齢を考慮すること、また実際の治療場面ではバンテージ装着時間を長くし、体重を減退させるアプローチが重要であることが示唆された。治療効果の向上により、治療回数を増やす必要がなくなり、個人の経済的負担を軽減させることも考えられた。
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top