抄録
【はじめに】 安静時における呼気流量制限(EFL)の有無は、COPD患者における動的肺過膨張の要因となることからもその評価は重要である。EFLの評価は、最大吸気・呼気Flow-Volume Loop (FVL)の中に安静呼吸中のFVLを描くことで行う場合や、Negative Expiratory Pressure(NEP)法を用いて行う場合があるが、前者は患者の努力を必要とし、後者は高価な測定機器が必要なことからも、臨床的な評価方法としては広まっていない。そのため、より簡便なEFLの評価法を確立する必要があると考えられる。そこで本研究では、慢性呼吸器疾患患者におけるEFLの有無が、安静呼吸中のFVL形状に影響を与えるかどうかを調べ、FVLの形状評価がEFLの指標として有効か否かを検討した。【方法】 対象は慢性呼吸器疾患患者37例(COPD患者26例,IP患者11例,年齢:76.6±1.2歳)とした。全対象者に研究について事前に説明し、同意を得られたものを対象とした。測定は端座位にて安静呼吸1分間及び最大吸気・呼気を行わせることで行い、その際の肺気量位、流量を呼気ガス分析装置(ミナト医科学社製AE300-s)を用いて測定した。安静呼吸中FVLは、安静呼吸中の任意の6呼吸における平均のFVLから作成し、形状の評価は呼気部の形状を視覚的に評価することで行った。形状の分類は,最高呼気流量が得られた点から呼気終末にかけて凸型を示すもの(凸型),直線的に減少するもの(直線),凹型を示すもの(凹型),呼気部全般にほぼ水平に推移するもの(水平)の4つに分類した。EFLの評価については、安静呼吸中のFVLを最大吸気・呼気FVLの中に描くことで行い、安静呼吸中FVLが最大呼気FVLを越える、重なる、最大呼気FVLの直下を平行に推移する肺気量位が存在する場合にEFLが存在すると判断した。そして、呼気流量制限の有無によって安静呼吸中FVLの形状や呼吸パターン、呼吸機能に違いがあるかを検討した。【説明と同意】 対象者には本研究の趣旨を説明し、書面による同意を得た。【結果】 安静呼吸中にEFLを示さなかった例は18例(COPD患者7例、IP患者11例:非EFL群)、示した例は19例(全例COPD患者:EFL群)であった。%VC、VCは両群で有意差がなかったが、%FEV1.0、FEV1.0はEFL群で有意に低かった。一方、呼吸数やduty cycle、一回換気量といった呼吸パターンの諸指標については両群間で有意な差はなかった。安静呼吸中のFVL形状について、非EFL群は凸型が15例、直線が3例であったが、EFL群は直線が9例、凹型が6例、水平が4例であり、凸型は全例非EFL群に属し、凹型、水平は全例EFL群に属していた。【考察】 本研究の結果より、EFLの有無によって安静時の呼吸パターンに違いはないものの、安静呼吸中におけるFVLの形状は異なり、特にその呼気部の形状が凸型を示すか否かはEFL有無の判断を行う際に有用な指標になると考えられた。努力呼吸ができない患者や高価な測定機器がない場合でも、この指標を用いることで簡便にEFLを検出できる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 安静呼吸の簡便な測定でEFLの有無が判断できる本法は、EFLの評価が必要な理学療法の臨床場面に応用可能な手法と考えられる。