抄録
【はじめに、目的】 現在、酸素の吸入形態も開発が進み携帯用酸素ボンベや液体酸素装置など様々な種類がある。以前に我々は、連続して酸素吸入(以下連続式)を用いる場合と在宅での外出時、吸気に同調して酸素吸入を用いる場合のマイペース6分間歩行試験(以下6FWT)中の経皮的酸素飽和度(以下SpO2)の比較を行いSpO2の平均値・最頻値に有意差があることを報告した。そこで今回、労作時での連続式と在宅で用いられる濃縮器を使用した場合を比較した。【方法】 労作時酸素吸入をしている患者22名(男性13名、女性9名、平均年齢71.5±5.9歳)に対して、連続式・濃縮器各々でSpO2をモニターしながら対象者の労作時酸素流量吸入下で6FWTを行い、その際のSpO2・歩行距離、Borg Scaleを測定・聴取した。SpO2の値は5秒間隔で記録紙に打ち出し、その平均値・最頻値・最高値・最低値を求めた。統計学的解析には対応のあるt検定を用い、p<0.05を有意差ありと判断した。また、検査は同日に行い、どちらの酸素吸入を先に行うかは封筒法にてランダムとし、歩行間に10分の休憩を挟んだ。対象者の酸素流量は0.5ℓ/minが2名、1.5ℓ/minが1名、2ℓ/minが6名、3ℓ/minが7名、4ℓ/minが5名、5ℓ/minが1名であった。パルスオキシメーターは帝人PULSOX-SP、濃縮器は帝人ファーマ株式会社ハイサンソ5Fxを用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に対して文書と口頭で本研究の内容を説明し十分な理解を得た上で、同意書に署名を頂き同意を得た。【結果】 6FWT中の全体のSpO2はそれぞれ(連続式:濃縮器)平均値(94.62%:93.42%)、最頻値(94.04%:93.86%)、最高値(97.31%:96.95%)、最低値(92.95%:90.09%)であった。平均値・最低値において濃縮器で有意に低下が認められた(p<0.01)。最頻値・最高値に関しては有意差を認めなかった。また、酸素流量別にSpO2の平均値・最低値を算出したところ、平均値はそれぞれ(連続式:濃縮器) 0.5ℓ/min(93.13%:93.01%)、1.5ℓ/min(93.50%:93.54%)、2ℓ/min(94.81%:93.99%)、3ℓ/min(94.40%:93.00%)、4ℓ/min(94.38%:92.79%)、5ℓ/min(99.54%:96.49%)となった。最低値はそれぞれ(連続式:濃縮器) 0.5ℓ/min(92.00%:92.00%)、1.5ℓ/min(92.00%:91.00%)、2ℓ/min(92.60%:89.60%)、3ℓ/min(92.81%:90.00%)、4ℓ/min(98.00%:88.40%)、5ℓ/min(98.00%:94.00%)となった。平均値、最低値どちらにおいても高流量の方が2群間のSpO2の値に差が大きく濃縮器の方が低値を示す傾向にあった。歩行距離に有意差は無く、連続式で延長したものは11名、濃縮器で延長したものが8名、不変が3名であった。Borg Scaleは、歩行後呼吸困難感の指標が連続式で増強したものが5名、濃縮器で増強したものが10名、不変が7名であった。歩行後下肢疲労感が連続式で増強したものが8名、濃縮器で増強したものが4名、不変が10名であった。【考察】 連続式では100%の濃度の酸素を吸入するのに対し、今回使用した濃縮器では大気中の酸素を吸着させて最低でも88%の濃度の酸素を得るため、SpO2の値に差が生じたと考えられる。また、濃縮器では供給する酸素濃度が低下するため、連続式と同流量の酸素流入でも高流量の酸素流入になるにつれて、低流量よりも身体に流入する酸素濃度が大きく低下し、高流量の方がSpO2の値が低下する傾向が得られたと考えられる。これらを踏まえた上で酸素流量を設定していくべきと思われる。【理学療法学研究としての意義】 実際の在宅で用いられる濃縮器と主に病院で使用されている配管からの酸素を吸入した際に差が生じるかが明らかになることで、酸素流量測定を行う際の判断基準とできると考える。