抄録
【はじめに、目的】 心不全患者は、高齢や長期罹患により身体機能が低下している例も多く、入院後の臥床によりADL低下に繋がることがある。近年、わが国の心臓リハビリテーション(CR)ガイドラインにおいても、運動療法は非薬物療法として注目されている。しかし、心不全の原因は多岐にわたり、画一的プログラムを進めることは困難であると考えられる場合が多い。今回、心不全患者に対し、早期から安全な包括的CRを行うことを目的として、循環器内科医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、理学療法士にて多職種参加型心不全ワークシート(WS)を作成し、運用したので報告する。【対象と方法】 平成23年2~5月に心不全で循環器病棟に入院した患者、25名(男性15名、女性10名)平均年齢75±14歳をコントロール群(C群)とし、平成23年6~10月に入院し、WSを使用した患者、20名(男性13名、女性7名)平均年齢72±10歳を介入群(I群)とした。WSは、超急性期、急性期、回復期、退院準備期の4つに分類され、多職種が介入内容について確認や記入できる形式になっている。リハビリ実施中は血圧、脈拍、心電図、Borg 指数、浮腫、四肢冷感などのモニタリングを行った。心不全の原因、合併症、入院時NYHA分類、入院時のNT-proBNP値、心臓超音波による心機能、入院期間、30m・50m・100m・200m歩行開始日、最終到達レベル、退院時6分間歩行距離、有害事象について評価した。患者群の背景因子は記述統計量を算出した。解析は各群の比較には正規性が仮定される連続数の比較は平均値(標準偏差)で要約、正規性が仮定できない群間比較は中央値(四分位範囲)で要約した。非連続性群間は頻度比較を用いた。また、母平均、母中央値、母比率の区間推定(95%)を行なった。【倫理的配慮、説明と同意】 当院の臨床研究審査会の承認を受け、患者に対する説明と同意を得た。【結果】 心不全の原因は(C群、I群)虚血(40%、30%)、特発性(16%、10%)、高血圧性(44%、50%)、弁疾患(24%、10)、その他(4%、0%)。合併症は、慢性肺疾患(12%、10%)、糖尿病(32%、35%)、脂質異常症(20%、15%)、腎不全(16%、25%)。入院時NYHAは、NYHA3(56%、55%)、NYHA4(37.5%、40%)。入院時NT-proBNP値(pg/ml)は、(6278±5887、11068±11398)、心臓超音波による心機能は、LVDd(mm)(54.0±9.7、60.7±7.4)、LVDs(mm)(40.0±11.7、49.2±9.1)、EF(%)(48.3±18.3、39.4±12.5)。入院期間は、(32±18日、20.6±9.6日)でありI群は有意に減少した(P<0.01)。また、歩行開始日は30m(13.6±9.0日、4.7±5.5日)、50m(15.7±12.6日、5.3±5.6日)、100m(16.8±20.0日、6.2±5.8日)、200m(24.2±42.1日、8.0±6.3日)であり有意に減少した(P<0.01)。最終到達レベルは、院内歩行レベル(20例、14例)、200m歩行レベル(1例、1例)、100m歩行レベル(2例、4例)、立位レベル(1例、1例)であった。6分間歩行距離は(306.3±88.8m、359.2±96.9m)で、I群で長かった。WS導入患者に有害事象は見られなかった。【考察】 WS導入により、各歩行開始日、在院日数は短縮し、6分間歩行距離は延長した。これは早期からの理学療法介入により、無用な臥床期間や廃用症候群が抑えられたことと、各職種が現在の病態や退院までの流れを把握し、退院に向けた対応を考えることができたためではないかと考えられた。理学療法の早期介入により危惧された有害事象は、理学療法士によるモニタリングに加え、他職種による包括的な視点からの評価と情報共有が日々行われていたために抑制されたのではないかと考えた。また、最終到達レベルは、病態より入院前のADLレベルに影響を受けたものが多かった。WS導入前は、各職種間の認識は必ずしも一致していたとは言えず、今回のWS導入により他職種間での役割の明確化、共通認識の向上など効率的で包括的なプログラムの提供が可能となったと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 WS導入により、入院期間の短縮、早期からの歩行、6分間歩行距離の向上を認めた。急性期心不全患者に対する包括的CRにおける理学療法介入の重要性が示唆された。