理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
心臓外科周術期のSEPAへの関連因子についての検討
氏川 拓也湯口 聡齊藤 和也金光 寛之松尾 知洋森沢 知之
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キーワード: 心臓外科手術, SEPA, HADS
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p. Da1004

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抄録
【はじめに、目的】 近年,心疾患患者における身体機能および健康関連QOL(Health-Related Quality of Life;HRQOL)に関連する因子の一つとして身体活動セルフ・エフィカシー(Self-Efficacy for Physical Activity;SEPA)が注目されている.現在,早期退院が進む中,退院時に自信のない患者をしばしば経験したため,我々は先行研究で,手術後在院日数とSEPAの関連について検討したが,関連性は低いという結果となった.そこで今回,心臓外科周術期のSEPAに関与している要因を明らかにするため,心臓外科周術期のSEPAの関連因子について検討した.【方法】 対象は,当院で心臓外科手術を施行した60名(男性39名,女性21名,平均年齢68.0±10.0歳)である.SEPA指標と基礎情報として,年齢,性別,基礎疾患の有無,手術前の左室駆出率,手術前NYHA,退院時Barthel Index,リハビリ進行(端坐位開始日,立位開始日,歩行開始日,歩行自立日,監視型運動療法開始日,退院日),身体機能の指標として,退院時の6MD,膝伸展ピークトルク値,心理的指標として,退院時のHospital Anxiety and Depression Scale(HADS),SASを測定した.6MD,膝伸展ピークトルク値,HADS,SASは退院時に測定し,基礎情報はカルテよりretrospectiveに調査した.SEPA指標にはSEPA尺度を用い,手術前と退院時に自己記入式質問紙を配布し,回答を得た.SEPA尺度は,各項目を0から100点に換算し,4項目をまとめた値の平均値を求め,総合得点とし使用した.手術前と退院時の総合得点の変化率が上昇した者を上昇群,下降した者を下降群とし,基礎情報,身体・心理的指標で比較検討した.統計学的手法として,2群間の比較にMann-WhitneyのU検定,non paired t-test,χ2検定を用い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 当院の倫理委員会にて承認を得た上で,全ての症例に本研究の趣旨を書面および口頭により説明し同意を得た.【結果】 上昇群18名(30%),下降群42名(70%)であった.SEPA尺度総合得点は手術前,退院時,変化率の順に,上昇群では54.2±29.6点,64.3±30.4点,10.1±7.3%,下降群では55.6±24.1点,31.4±23.6点,-24.2±14.2%であった.上昇群と下降群の2群間の比較では,基礎情報の年齢(67.7±11.8歳vs. 68.1±9.3歳),性別,基礎疾患の有無,手術前の左室駆出率(63.5±10.5% vs. 61.8±12.2%),手術前NYHA(1.7±0.5 vs. 1.7±0.7),退院時Barthel Index(99.2±2.6点vs. 99.4±2.3点),リハビリ進行の端坐位開始日(1.4±0.8日vs. 1.4±0.9日),立位開始日(1.7±0.8日vs. 1.8±1.0日),歩行開始日(2.8±0.9日vs. 2.8±1.0日),歩行自立日(5.1±2.1日vs. 5.2±2.3日),監視型運動療法開始日(8.4±4.4日vs. 8.2±4.2日),退院日(19.1±5.7日vs. 18.2±5.8日),身体機能指標の退院時の6MD(428.3±103.8m vs. 409.5±91.6m),膝伸展ピークトルク値(1.69±0.6Nm/kg vs. 1.57±0.7Nm/kg)には有意差は認められなかった.心理的指標のHADSでは上昇群,下降群の順に,不安が2.4±2.3 vs. 4.9±3.4,抑うつが2.6±2.6 vs. 5.2±3.3であり,上昇群で有意に低値を示し,SASでは10.2±5.7 vs. 5.9±5.9と上昇群で有意に高値を示した.【考察】 本研究では,SEPA尺度総合得点の上昇群と下降群において,身体機能指標では有意差は認められず,不安や抑うつといった心理的指標に有意差が認められた.基礎情報や身体機能指標は2群間で差はないことから,これらがSEPAに及ぼす影響は少ないものと考えられた.よって,SEPAの向上には,不安や抑うつなどの心理面が関与していると考えられた.心疾患患者の30~50%が抑うつ状態,不安などを引き起こすといわれている.以上より,SEPAの向上には身体機能のみならず,不安や抑うつといった心理面の向上のための方策も検討する必要があることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 心臓外科手術後早期のSEPAに関与している要因を明らかにし,その要因に対する介入をすることで,SEPAまたはHRQOLの向上に繋がることが期待される.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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