理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
心臓外科手術後の歩行自立日は術前情報や手術情報から予測可能か?
湯口 聡森沢 知之大浦 啓輔上坂 建太田原 将之渋川 武志櫻田 弘治斎藤 正和花房 祐輔高橋 哲也
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p. Da1003

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抄録
【はじめに、目的】 近年、心臓外科手術や早期離床を含めた周術期管理の進歩により、早期社会復帰が可能となっている。一方で心臓外科手術の対象は高齢者や低体力者などの高リスク症例が増加する傾向にあり、手術後リハビリテーション(リハビリ)の進行に難渋する症例も一定割合存在する。現在、手術後リハビリの進行にはクリニカルパスを指標とし段階的に進行するのが一般的であるが、高リスク症例に対して特別なパスを適応している施設も少なく、標準化されたものはないと思われる。対象者の高齢化などにより、今後、手術の対象は今以上にハイリスクになり、個々の症例に応じたリハビリが必要になってくると予想される。個々の症例に応じたリハビリプログラムを計画するためには、手術後の歩行自立到達速度の予測は重要である。そこで今回我々は術前情報と手術情報から手術後の歩行自立日がどの程度予測可能であるかを検討した。【方法】 2009年1月以降に全国8施設において心臓外科手術後に理学療法を施行した1332例中、冠動脈バイパス術および弁形成・置換術を施行した1001例(男性637名、女性364名、年齢67.5±12.0歳)を対象とした。術前の患者基本情報、手術情報、術後100m歩行自立日をカルテよりRetrospectiveに調査した。術前の患者基本情報として、「手術の緊急度」、「年齢」、「性別」、「BMI」、基礎疾患として「糖尿病(DM)」、「高血圧(HT)」、「脂質異常症(HL)」、「高尿酸血症(HU)」,「血液透析(HD)」、「慢性腎臓病(CKD)」、「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」、「心不全(CHF)」、「陳旧性心筋梗塞の既往(MI)」、「不整脈」、「脳血管障害(CVA)」、「末梢動脈疾患(PAD)」、「運動器疾患」、「心血管治療歴」、「喫煙」の各有無、「術前NYHA分類」、「左室駆出率(EF)」、手術情報として「手術時間」、「麻酔時間」、「出血量」、「大動脈遮断時間」、「人工心肺時間」、「手術終了時の水分バランス」、「術後ICU帰室から人工呼吸器離脱までの時間」の計28項目を独立変数、手術後100m歩行自立日を従属変数としたステップワイズの重回帰分析(変数増加法、採用F値:4)により、有効な説明変数の抽出および従属変数を予測する一次関数式を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究実施にあたり、研究の趣旨、内容および調査データの管理を一括して厳重に管理することを本人に説明し同意を得た。【結果】 ステップワイズの重回帰分析より、28項目の独立変数から採用されたのは11項目であり、「手術の緊急度」:X1、「年齢」:X2、「性別」:X3、「BMI」:X4、「CKD」:X5、「不整脈」:X6、「心血管治療歴」:X7、「術前NYHA分類」:X8、「麻酔時間」:X9、「出血量」:X10、「術後ICU帰室から人工呼吸器離脱までの時間」:X11であった。また、手術後100m歩行自立日:Yを予測する一次関数式は、Y=2.315-0.941X1+0.061X2-0.779X3-0.095X4+1.733X5+0.857X6+1.544X7+0.874X8+0.004X9+0.001X10+0.001X11であった(r=0.62,r2=0.39,自由度調整r2=0.38,p<0.0001)。【考察】 重回帰分析で採用された独立変数11項目が手術後100m歩行自立日に関わり、それらの要因で39%が説明可能であった。採用された項目は手術の緊急度、年齢、CKD、手術侵襲など先行研究で術後管理に難渋するとされる項目が多かった。しかし、今回の解析に使用した独立変数では手術後100m歩行自立日に対する寄与率が39%であり、一定の傾向は示す可能性はあるが、予測精度は十分ではないと思われた。近年、腎機能や栄養状態などが手術後の歩行自立に関係していると報告されており、これらに影響する血液・生化学データやその他指標を含めて、さらに検討が必要であると思われた。【理学療法学研究としての意義】 心臓外科手術後の対象は高齢化や低体力者などのハイリスクになる傾向があり、個々の症例に応じたリハビリが必要になると思われる。多施設間における症例の術前・手術情報から手術後の歩行自立日を予測することで、標準化かつ個別性のある手術後のリハビリの実施が可能になると推測される。今回の解析に使用した独立変数では歩行自立日の予測精度は十分ではなく、予測精度向上のために、さらなる指標の検討が必要である。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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