理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
左大腿骨頚部骨折を受傷後にsevereASを指摘され、AVR及び人工骨頭置換術を施行された1症例
戸高 幹生新地 達哉浅畠 知也藤崎 修兵
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Db0546

詳細
抄録
【目的】 今回、大腿骨頚部骨折受傷直後に重度の大動脈弁狭窄症(以下AS)を指摘され、大動脈弁置換術(以下AVR)及び人工骨頭置換術を施行された極めて稀な症例を経験した。リハビリテーションの介入にあたり、全身状態の管理を考慮しながらADL拡大をどのように図っていくのか、様々な場面で悩んだ症例であった。今後の臨床に活かしていく課題として経過をまとめ、ここに報告する。【方法】 症例研究として報告する。症例は79歳女性。受傷する1年ほど前から労作時の呼吸困難を感じていたが、受診などは特にせず様子を見ていた。受傷前のADLは自立レベルであったものの、転倒することが多かったため歩行時は予防的にT字杖を使用していた。平成23年7月初旬、自宅の庭にて転倒。救急車にて当院へ搬送時、呼吸困難・起坐呼吸認め、来院時には高CO2血症及び胸部レントゲンにて両側胸水認めたため、当院循環器内科受診。severeASによる呼吸困難を指摘され、まずは循環器主科で当院CCUにて全身状態改善目的に入院となる。なお、骨折については左大腿骨頚部骨折(Garden4)であり、AVR術後の全身状態の改善に伴い当院整形外科にて人工骨頭置換術施行予定となる。入院7日目に循環器内科から心臓外科に転科し、入院8日目にAVR施行(生体弁;Magna21mm)。入院9日目より左下肢免荷指示のもと理学療法開始となる。全身状態が安定したため入院22日目に心臓外科から整形外科に転科し、入院23日目に人工骨頭置換術施行(SUMMIT;Depuy社)。入院25日目より理学療法再開となる。入院72日目にリハビリテーションの継続目的にて他院に転院となる。【説明と同意】 報告に当たり、目的及び内容を説明し、患者本人から同意を得た。【結果】 AVR術後翌日(入院9日目)より理学療法開始。CCU管理中は心電図モニターや血圧管理、投薬状況をもとにベッドギャッジアップ坐位からリハ開始。入院10日目より端坐位保持練習を開始し、以降は左下肢免荷のもと車椅子移乗練習を導入し、一般病棟へ転棟後は平行棒内立位練習を中心に行っていた。病棟でも定期的な車椅子坐位の時間を確保してもらい、起立性低血圧や深部静脈血栓症、昼夜逆転等の二次的合併症の予防に努めていた。なお、術前よりラシックスやハンプなどの注入により利尿は確保されていたものの、胸部レントゲンの状況としては入院15日目を過ぎても左胸水が多い状態であり、入院17日目に左側胸水穿刺排液している。人工骨頭置換術後2日目(入院25日目)より左下肢全荷重指示のもと理学療法再開。なお、バイアスピリンとワーファリンを内服しているため術後より出血が多く、同日にMAP4単位輸血している。理学療法としてはバイタルチェック以外に本人の自覚症状(息切れ感や疲労感)をもとに、左下肢への荷重練習を開始し、ADL拡大時は心電図モニタリングを行っていた。なお、入院30日目での回診にて低アルブミン血症による胸水・腹水・両下肢の浮腫を指摘され、経過を見ていくも改善が見られない為、入院41日目にアルブミナーの注入開始となる。その後も腹水は軽減されない為、ラシックスの増量となる。しかし、その後も胸水・腹水は残存し、入院50日目よりハンプの持続点滴を開始することとなる。理学療法としては旧ボルグ指数を参考に自覚症状が11~13の範囲内でおさまるように適宜確認し、術後の心不全の予防に努めていた。また、体幹・股関節の可動域制限によるADL能力の低下、特に立ち上がり動作時の介助量の多さが著明であったため、能力に合わせてベッドの高さを調整していった。病棟にもその旨を伝えて体重測定時や車椅子移乗時の参考としていた。退院前には全身状態も安定し、本人用のT字杖を利用して介助にて病棟内を70m程度移動できる能力となるも、左下肢の筋出力の弱さによる歩容の不安定さを認め、転院先の病院にその旨を伝えてリハビリテーションの継続を依頼することとなった。【考察】 AVR施行後から人工骨頭置換術までの早期離床・二次的合併症予防の為の理学療法をどう行っていくのかを検討した。また、人工骨頭置換術後のADLの拡大に向けて、理学療法のみでなく病棟との連携によりどのようにアプローチしていくのかを検討した。【理学療法学研究としての意義】 在院日数の短縮化が図られている昨今、バリアンスとしてパスから逸脱するケースは多々ある。特に今回のような複数の手術を行ったケースでの術後の全身管理の重要性、そして理学療法部門からのアプローチを急性期病院の立場から改めて見直すことで、今後の臨床に役立てられるのではないかと考える。
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top