抄録
【はじめに・目的】 温浴は、身体をどこまで温水に浸すかによって温熱因子以外にも、静水圧の影響が血管を圧迫するという影響がある。特に全身浴はその影響が顕著である。そのため、循環器系の負担軽減のためには、半身浴や部分浴が好ましいと言われている。今回は前腕浴よりも、より簡便な部分浴として、手だけを温水に浸す手浴(手浴)と母指だけを温水に浸す母指浴(母指浴)を施行し、身体への影響を比較検討した。【方法】 対象者は健康な若年男性15名(内訳:年齢21.1±0.5歳、身長173±5.1cm、体重64±8.3kg(Mean±SD)) である。部分浴は十分な安静後、室温19℃前後の環境で、41℃の部分浴を20分間実施し、その後30分間安静座位を保たせた。母指浴は母指IP関節までとし、手浴は両手関節までとした。なお両浴はランダムに1日以上の間隔を空けた。湯温はTERUMO社製MODEL CTM205を使用し、41℃に保つよう設定した。 測定項目は舌下温、右前腕皮膚血流量、皮膚温、主観的温感強度、血圧、心拍数とした。測定は安静時と部分浴20分経過時に測定した。舌下温はTERUMO社製MODEL CTM-205を用い、血圧はOMRON社製デジタル自動血圧計HEM-7700、心拍数は日本光電社製BSM-2400を使用した。統計処理は2群間の平均値の差の検定を関連2群で主観的温感強度以外はパラメトリック検定をおこない、主観的温感強度はノンパラメトリック検定でおこなった。【倫理的配慮 説明と同意】 本研究は、当国立大学医学部の倫理審査会において、審査を受け、承認されたのち行った研究である。なお、被験者に対して本研究の説明をおこない、同意文書を得て行った。【結果】 舌下温は母指浴20分間で安静時より0.51±0.29℃上昇し、手浴20分間では安静時より0.54±0.36℃上昇した。母指浴と手浴後30分経過時では、共に0.35℃以上の舌下温の上昇を保っていた。主観的温感強度は母指浴も手浴もほぼ同じで、ちょうどよい温感であった。右前腕部の皮膚血流量は、安静時より母指浴で1.3±2.2増加、手浴では7.0±5.7増加を認め、母指浴より手浴が有意に増加した(P<0.05)。心拍数は、母指浴は0.7±4.9bpm増加、手浴は8±7.2bpm増加し有意差を認めた(P<0.05)。血圧は、両浴で収縮期血圧、拡張期血圧ともに一桁程度低下した。【考察】 舌下温は、温められた表面積に依存すると考えられており、堀切らは、41℃10分間の全身浴で舌下温が0.7~1.0℃上昇すると報告している。今回の結果では両浴ともに0.5℃以上上昇し、浴後30分経過時でも、共に0.35℃以上の舌下温の上昇を保っていた。母指浴は全身浴と比較すると温める表面積は非常に小さい面積となるが、手浴と同程度まで上昇したことは、温める面積が小さくても、温浴効果は得られることが分かった。また、母指浴では大きな循環の促進を伴わない体温の上昇がみられ、また主観的な温感も19℃という比較的涼しい環境下で「ちょうどよい」という快適な結果になった。身体への影響として、温浴によって血圧は、両方法でほとんど変化せず、心拍数も手浴で一桁の変化であったことから、身体にかかる負担は、非常に小さかったと考える。一方、手浴においては循環機能の促進を伴う体温の上昇がみられた。以上のことから、治療効果として循環を促進したい場合は手浴が適しているが、自覚的な温感を得たい場合や循環以外の治療効果を期待する場合は母指浴でも十分効果があるということが考えられた。【まとめ】 1.本研究では健康な若年男性15名に対し母指浴と手浴を行い、身体への変化を観察した。 2.舌下温は母指浴と手浴ともに20分の温浴で約0.5℃上昇し、浴後30分経過時でも、0.35℃の上昇が保たれた。主観的な温感も同等に「ちょうどよい」という温感結果であった。3.皮膚血流量ついては手浴の方が有意に上昇した。4.血圧は、両方法でほとんど変化せず、心拍数も手浴で一桁の変化であった。 【理学療法学研究としての意義】 部分浴として手浴あるいは母指浴を行う場合、治療効果として循環を促進したい場合は、手浴が適しているが、自覚的な温感を得たい場合や循環以外の治療効果を期待する場合には母指浴でも十分に温浴効果があることが示唆された。