理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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血液透析患者における日常生活動作での自覚的困難感について
柿原 稔永南田 義孝藤川 智広早原 敏之高田 裕山田 英司内田 茂博岩崎 裕子川原 和彦
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p. Db0579

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抄録
【目的】 血液透析(以下HD)患者では、健常人と比較しても50%~70%の運動耐容能や筋力が低下している。さらに、透析アミロイドーシスや破壊性脊椎関節症など様々な合併症を有しているため、日常生活動作 (以下ADL)が自立していても、自覚的な困難を感じている可能性がある。そこで、本研究ではHD患者のADL上での自覚的困難感と、その要因について検討を行った。【方法】 対象は、外来HD患者49例(男性28例、女性21例)で、年齢63.2±6.9歳、HD歴17.9±9.9年であった。ベースライン時の調査では、患者背景因子として年齢、性別、HD歴、身体組成(身長、体重、BMI)、血液検査所見(血清アルブミン値、血清ヘマトクリット値、ヘモグロビン値、クレアチニン値、尿素窒素値(以下Cr)、Cr Index、透析効率、至適蛋白摂取量)を調査した。ADLでの自覚的困難感は、Functional Independence Measure(FIM)の運動項目において、ADL上行っている動作に関する66項目のアンケートを作成し、聞き取り調査を行った。回答は、HD患者の自覚的困難感に基づいて、各動作毎に介助なしで実施出来るかどうかを、「0.非実施」、「1.できない」、「2.とても困難」、「3.やや困難」、「4.やや楽だ」、「5.とても楽だ」の6段階で評価を行い、4点以上は自立レベルとした。アンケートで得られた結果に対し、自覚的困難感を感じている患者(0.非実施~3.やや困難)の割合を算出し、各動作での難易度を算出した。算出された難易度の高い5項目に対して、年齢、性別、HD期間、身体組織、血液検査所見が及ぼす影響の程度を、Spearmanの相関分析、Stepwise法による重回帰分析にて解析を行った。統計ソフトにはSPSS Student Version 16.0を使用し、有意水準を5%とした。【説明と同意】 すべての対象者に、本研究の趣旨および目的を口頭にて説明を実施した。同意が得られた者は、同意書に署名を頂いたうえで検査および調査を実施した。【結果】 アンケート調査より、HD患者の自覚的困難感は、和式トイレ(65%)、床からの起立動作 (51%)、1Km歩行(46%)、床への着座動作(45%)、3階までの階段昇段(42%)の順であった。各項目の相関係数は、和式トイレ:年齢(r=-0.315,P<0.05)、床からの起立動作:HD期間(r=-0.563,P<0.01)、Cr(r=0.367,P<0.01)、1Km歩行:HD期間(r=-0.321,P<0.05)、床への着座動作:HD期間(r=-0.607,P<0.01)、Cr(r=0.382,P<0.01)、Cr Index(r=0.295,P<0.01)、 3階までの階段昇段:HD期間(r=-0.381,P<0.01)という結果となった。重回帰分析の結果、和式トイレ(R2=0.345,P<0.001)での困難感を規定する因子として、年齢(P<0.002,β=-0.409)、透析効率(P<0.004,β=0.369)、HD期間(P<0.005,β=-0.362)が有意な因子として抽出された。床からの起立動作(R2=0.31,P<0.001)では、HD期間(P<0.001,β=-0.557)、1km歩行(R2=0.108,P<0.22)では、HD期間(P<0.22,β=-0.329)、床への着座動作(R2=0.42,P<0.001)では、HD期間(P<0.001,β=-0.571)、Cr Index (P<0.036,β=0.245)、3階までの階段昇段(R2=0.119,P<0.016)では、HD期間(P<0.016,β=-0.345)が各々有用な因子として抽出された。【考察】 HD患者におけるADLでの自覚的困難感に対し、アンケート調査を実施した。結果、和式トイレ、床からの起立動作、1Km歩行、床への着座動作、3階までの階段昇段において、高い割合で困難感を示した。前述の各項目全てにおいて相関がみられた因子としては、HD期間のみであった。このことから、HD患者の自覚的困難感にHD期間が大きく影響していると考えられる。HD期間の長期化に伴い、アミロイド症が重症化し、股関節や膝関節などの大関節にも多発性の病変を示し、下肢の関節痛や可動域制限が生じること、HD期間が15年以上の患者では、15年以下の患者に比べ、下肢筋力およびバランス機能が10~15%低下し、歩行機能が低下することが報告されている。これにより、和式トイレ、床からの起立動作、床への着座動作など下肢の大きな伸展モーメントが必要となる動作や、1Km歩行、3階までの階段昇段などの高い機能が必要となる動作において、HD期間と自覚的困難感に相関が認められたと考えられた。しかし、本研究では、関節可動域や筋力といった身体状況との検討を行っていないため、今後、自覚的困難感と身体状況との関係性を詳細に検討していく必要性がある。【理学療法学研究としての意義】 近年、HD療法の治療目的は生命維持のみならず、ADLやQOLの改善に向けられている。しかし、HD患者のADLにおける自覚的困難感についての研究報告は少ない。本研究にて、HD期間が自覚的困難感に強く影響している事が明らかとなった。そのため、本研究はHD患者のQOLの向上を目指していく中で、重要な意義を持つ研究であると考えられる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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