抄録
【はじめに、目的】 慢性腎不全は,保存期より低栄養状態や貧血を呈する.低栄養状態は活動性の低下や免疫力の低下など様々な不利益をもたらし,廃用症候群(廃用)を招く一因である.廃用は患者層の高齢化,重症化等により社会的に問題視されている.特に腎不全患者は栄養状態の悪化,身体活動量の低下などにより,廃用をきたしやすい.慢性腎不全保存期の患者は将来維持透析となる可能性を秘めており,慢性腎不全保存期から栄養状態の管理,身体活動量の維持等の適正な介入により廃用を予防して,良好な全身状態を維持する必要がある.しかしながら,慢性腎不全保存期の栄養状態が理学療法(PT)介入効果へどのような影響があるかを検討した報告は少ない.そこで,本研究では慢性腎不全保存期患者の栄養状態が,PT介入効果にどのように影響しているかを後方視的に検討した.【方法】 2007年4月から2011年3月までの期間に,当院腎臓内科に入院し,PTの依頼があった患者は162名であった.死亡退院を除いた142名の中で,慢性腎不全の診断をされた69名(年齢77.9 ± 8.3歳,血清アルブミン(Alb)値2.95 ± 0.66 g/dl)を対象とした.この対象をPT開始時のAlb値が3.0 g/dl以上を高Alb群(年齢77.6 ± 9.4歳,男性19名,女性15名,Alb値3.46 ± 0.41 g/dl)と,3.0 g/dl未満を低Alb群(年齢78.3 ± 7.2歳,男性20名,女性15名,Alb値2.43 ± 0.40 g/dl)に分けた.これらのPT開始時と終了時のBI,入院期間,PT実施率(%:PT実施日数/介入期間日数)を比較した.群間および開始時と終了時のBIの関係をrepeated measured ANOVEを用いて解析した.年齢,入院期間,PT実施率の群間比較,開始時のBIと終了時のBIの群内・群間比較をWilcoxon符号付き順位検定により解析した.有意水準は5 %とした.【倫理的配慮、説明と同意】 これらの調査はすべてヘルシンキ宣言に基づいた方法で実施された.【結果】 高Alb群と低Alb群の年齢に有意な差は認めなかった.群間および開始時と終了時のBIの関係に相互作用は認められず,時間のみに有意な主効果が認められた(p < 0.001).高Alb群の開始時のBIは58.4 ± 25.4,終了時のBIは72.4 ± 27.9と有意に改善した(p < 0.001).低Alb群の開始時のBIは41.5 ± 26.0,終了時のBIは64.1 ± 25.7と有意に改善した(p < 0.001).開始時のBIは,高Alb群が低Alb群より有意に高値を示した(p = 0.01).終了時のBIは,高Alb群と低Alb群の間に有意な差は認められなかった.入院期間は高Alb群が19.4 ± 11.1日,低Alb群が42.4 ± 22.7日と高Alb群が有意に低値を示した(p < 0.001).また,PT実施率は高Alb群が80.7 ± 14.7 %,低Alb群が66.2 ± 13.0 %と高Alb群が有意に高値を示した(p < 0.001).【考察】 高Alb群,低Alb群ともに,開始時のBIよりも終了時のBIは有意に改善した.開始時のBIに差がみられたが,終了時のBIには差は認められなかった.Alb値が低い場合であっても,期間を要すれば改善を見込むことができることがうかがわれた.またAlb値の差により,入院期間に差が認められた.退院時のBIに差がないことから,Alb値の良し悪しにより,PT介入から得られた動作能力改善効果に差が生じたことが示唆された.栄養状態が良好に維持されることで,全身状態の悪化を呈さずにトレーナビリティが高く維持されていたためであると考えられる.さらにAlb値の差により,PT実施率にも差がみられた.栄養状態の悪化は,貧血,感染症等を惹起する要因であり,積極的なPT介入を行える状態にはなかった事が原因として考えられる.これらより,慢性腎不全保存期患者の栄養状態は,動作能力の改善,入院期間,PT実施率に影響を与え得る,良質なリハビリテーションの提供を考える上で,重要な因子であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 慢性腎不全保存期患者に対して実施されるPTの効果は栄養状態の影響を受けていることが示唆された.慢性腎不全保存期の患者の栄養状態を良好に維持することは,良質なリハビリテーションの実現に対し重要な要因であると考えられる.