抄録
【はじめに、目的】 ADO indexは生命予後指標として用いられている評価である。これまでの我々の報告は、COPD患者において、ADO indexが障害像を把握する指標になる可能性を示唆してきた。しかし、あくまでもADO indexと各身体機能などとの相関関係の範疇であり、それらのどの部分がより影響しているかを検討していなかった。そこで今回、ADO index に影響を与えている身体機能、身体能力を検証したので報告する。【方法】 対象は、研究の参加に同意が得られた男性COPD患者71名であった。平均年齢は74.4±7.9歳、BMIは21.0±4.1、%FEV1.0は50.0±23.0%である。なお、対象の選定は、重篤な内科的合併症の有する者、歩行に支障をきたすような骨関節疾患を有する者、脳血管障害の既往がある者、その他歩行時に介助を有する者、理解力が不良な者、測定への同意が得られなかった者は対象から除外した。測定項目は、ADO index 、updated BODE index、呼吸筋力検査(PImax、PEmax)、握力、膝伸展筋力、片脚立位時間、5m最速歩行速度、Timed Up and Go Test(TUG)、6分間歩行距離テスト(6MWD)、長崎大学ADL質問票(NRADL)、St George's Respiratory Questionnaire(SGRQ)とした。ADO index は年齢、mMRC息切れスケール、%FEV1.0で算出された合計10点満点の評価尺度である。統計学的解析は、ADO indexと各測定項目との相関をPearsonの相関係数で分析した。ADO index の影響因子の検索は、ステップワイズ法にて従属変数をADO indexとし、独立変数はMIP、MEP、握力、膝伸展筋力、片脚立位時間、5m最速歩行速度、TUG、6MWDとした。統計解析ソフトはSPSS ver.17を使用し、帰無仮説の棄却域は有意水準5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象に研究の趣旨、方法、公表方法、同意の撤回などについて文書を用いて口頭にて説明した上で同意を得た。なお、本研究は、佐賀大学研究倫理委員会にて研究の倫理性に関する審査、承認を得て実施した。【結果】 ADO indexと各測定項目との相関はupdated BODE index(r=0.76、p<0.01)、MIP(r=-0.37、p<0.01)、MEP(r=-0.45、p<0.01)、握力(r=-0.32、p<0.01)、膝伸展筋力(r=-0.30、p<0.01)、片脚立位時間(r=-0.52、p<0.01)、5m最速歩行速度(r=-0.60、p<0.01)、TUG (r=0.45、p<0.01)、6MWD(r=-0.71、p<0.01)、NRADL(r=-0.60、p<0.01)、SGRQ(r=0.47、p<0.01)であった。ADO indexの影響因子の検索は、ステップワイズ法にて、6MWD(標準偏回帰係数=-0.56、p<0.01)、片脚立位時間(標準偏回帰係数=-0.22、p=0.017)、5m最速歩行速度(標準偏回帰係数=-0.26、p=0.018)が選定された(R2=0.589、p<0.01)。【考察】 6MWD、片脚立位時間、5m最速歩行速度はADO indexに影響を及ぼすことが示唆された。ADO indexを算出する評価項目には年齢が含まれる。健常高齢者では加齢変化により6MWD、片脚立位時間、5m最速歩行速度は低下する。COPD患者においても同様にそれら運動機能は低下し、影響を与えたのではないかと考える。また、ADO indexを算出する評価項目にはmMRC息切れスケールが含まれる。息切れによる努力性の呼吸が、体幹を中心とした軽度の動揺を引き起こし静的バランスの評価である片脚立位時間を低下させ、ADO indexに影響を与えたのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、COPD患者の生命予後、障害像に6MWD、片脚立位時間、5m最速歩行速度が関与する可能性が示唆された。これによって、COPD患者に対する治療プラグラムの中で、運動耐容能、バランス能力、歩行スピードの改善に向けたアプローチの効果が、生命予後、障害像にいくらかの影響を与える可能性が期待される。